2014年12月11日
アルマ望遠鏡の実力は「こんなもんじゃない!」
アルマ望遠鏡が視力2000でとらえた惑星誕生の現場写真。おうし座の方向約450光年にあるおうし座HL星の周りにあるチリの円盤。惑星が誕生するときは円盤の中のチリやガスをかき集めて成長していくため、溝ができると考えられている。理論通りの溝が複数、撮影された画期的な画像だ。(提供:ALMA(ESO/NAOJ/NRAO) )
2014年11月上旬、アルマ望遠鏡が視力2000という「史上最高の解像度」で惑星が生まれる現場を押さえた。その画像は「これ、CGじゃなくて本物の画像なの?」とオドロキをもって瞬く間にSNS上を駆け巡り、新聞一面で報道されるなど大きくとりあげられた。
しかし、アルマ広報担当(この12月からは国立天文台広報室長!)の平松正顕さんは「こんなもんじゃない!」と興奮気味にメールを下さった。(いや、この画像十分スゴイと思うのだが、いったい何が?)と思いつつ、国立天文台に伺った。以下、平松さんとのやりとりです。
☆「ヤバイものが見えちゃった!」
━ スゴイ画像が発表されましたね。惑星形成の理論で言われていたことが本当なんだ!と興奮しました。平松さんは最初に画像を見たときはどう思いましたか?
平松:予想以上でした。実はこれ、試験観測で撮った画像なんです。アルマ望遠鏡は複数の望遠鏡を離れた距離において、同じ天体を観測します。たとえば2つの望遠鏡を離すとその間の距離が望遠鏡の口径に相当する。つまり離せば離すほど視力がよくなります。
これまで最大1.5kmしか離していなかった望遠鏡を15km離して視力2000を実現し、いくつかのターゲット天体に向けて求められる性能を出せるかどうか、試験観測を行ったんです。期待していたものの、実際に目の当たりにすると「ヤバイものが見えちゃった!」。天文学者たちも「イラストでもCGでもなくて本当に観測画像なの?」と驚いていましたね。
━ どこが予想以上だったんですか?
平松:ポイントは2つあります。恒星の周りで惑星が生まれるときは、砂粒やガスでできた円盤の中を原始惑星が回ることで「溝」ができていくと考えられています。今までも溝は見つかっていましたが、こんなに何本も溝があり、複雑な構造が見えたことのは初めてです。それが一つ目。
もう一つは、この星(おうし座HL星)の年齢です。一言で言えば、若い。年齢は100万年ぐらいと見積もられています。これまで原始惑星が大きく育って溝ができるには数百万年~1千万年ぐらいかかると理論的に考えられていた。それなのに100万歳の星の周りに今回観測されたということは、理論の根本的なところを考え直さないといけなくなるかもしれないような発見なのです。
━ ほー!素晴らしいじゃないですか。
平松:・・・ここまでは報道で出ていました。でもこの画像が意味するところは、それに留まらないんです! 他の天体についてもこの解像度で見えてくるわけです。
☆謎の「モンスター銀河」が見えてくる!?
1990年代からサブミリ波で観測を行ったところ初期宇宙には爆発的に星を形成する銀河(モンスター銀河)が多数あることがわかってきた。画像は南米チリのアステ望遠鏡が観測した約200個のモンスター銀河。右上は想像図。こうした銀河の詳細がアルマでわかってくるだろう。(提供:T.Sawada,NAOJ/東京大学 2010年9月、国立天文台の廿日出文洋研究員、東京大学の河野孝太郎教授等を中心とする国際研究チームの記者発表より)
━ 例えばどんな天体ですか?
平松:今、ものすごく期待しているのが「生まれたての銀河」です。およそ百億光年彼方の宇宙には、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡のような可視光では見えないのに、電波(特にアルマが観測するサブミリ波)で明るく光る銀河がたくさんあるのです。でもその正体は謎が多い。
━ どんな銀河ですか?
平松:宇宙初期のベビーブーム時代の銀河です。実は銀河の星は、昔のほうが活発に生まれていて、最近は出生率が下がっている(笑)。この「星のベビーブーム」時代の銀河がアルマ望遠鏡ではよく見えます。銀河の中では1年間に100から1000個もの星が爆発的に生まれていると考えられています。私達の住む天の川銀河の数百倍から1000倍の勢いで星を作っていて、「モンスター銀河」と呼んでいる研究者もいます。でも星で温められたガスや塵が銀河全体を覆っているため可視光では見えない。電波でも遠くにあるので、これまでの解像度だと電波の強さ、温度ぐらいしかわからなかった。
それをアルマの視力2000以上で観測すれば、銀河の形が見えてくる。渦を巻いているのか、衝突しているのか、つまり銀河で「何が起こってくるのか」が初めて見えてくるはずです。
━ 衝突している銀河が見えるかもしれない !?
平松:銀河の衝突は宇宙初期に頻繁に起こっていて、衝突することで星が活発にできると考えられています。どういうメカニズムで星が活発に生まれているのか、謎だった銀河の正体が見えてくる。その意味でアルマは「天文学に革命をもたらす」と考えています。新聞のインタビューでも答えたのですが紙面の制約か、あるいはおうし座HL星の画像からは少し飛躍があるからか、カットされてしまいましたが・・・。
━ そうですか(笑)銀河については、今回の試験観測のターゲットになっていますか?
平松:なってます!なってます!
━ ということは、これから銀河の詳細画像が出る可能性も?ものすごい衝撃でしょうね。
平松:と思いますよ。この先が非常に楽しみです。ドアをちらっと開けたら、惑星誕生の現場が見えた。では「ドアを全開したら何が見えてくるんだろう」と興奮してます。おそらく今、世界中の天文学者が、アルマで自分のテーマを観測したら何が見えるんだろうと考えている。僕も考えましたから(笑)。次の観測提案に、わっと応募が集まるんじゃないでしょうか。
☆視力6000はいつ達成? 惑星そのものが見える?
アルマ望遠鏡山麓施設で撮影した天の川。来年は一般見学が可能になるかもしれない(提供:ALMA、国立天文台)
━ ところで、今年1月のコラムで「アルマは視力6000!」と書いたのですが、今の段階で視力2000ですよね。視力6000はいつ頃実現するのですか?
平松:今回望遠鏡を15km離して観測しましたが、その距離を最大の18.5kmまでのばしていきます。それとともに効いてくるのが、観測する電波の波長です。今はバンド6という受信機を使っていますが、これを約3.5倍短い波長であるバンド10に変える。この組み合わせで視力6000が達成できます。ただし厳しい条件になるので試験をしながら徐々にアルマを成長させていく計画です。装置だけでなくデータ解析をするスタッフもトレーニングが必要ですからあと数年のうちには・・・。
☆憧れのアルマ望遠鏡の一般見学ができる!?
━ 進化していくアルマが楽しみですね。一度は行ってみたいなぁ。
平松:実はアルマの山麓施設の一般見学を検討していますよ。
━ え、本当ですか!?
平松:けっこう問い合わせを頂くんですよ。見学できませんか?って。標高5000mの山頂施設は無理ですが、2900メートルにある山麓施設にはメンテナンス中のアンテナの実物もあります。ふもとの村、サンペドロ・デ・アタカマは星も十分綺麗に見えますよ。周囲にはアタカマ塩湖や浸食地形である「月の谷」、世界一標高の高い場所にある間欠泉もあります。
━ 月の谷とかしびれますね(笑)。地球上で一番宇宙に近い場所、いつ頃実現しそうですか?
平松:来年の実現を目標にしています。
━ これは行かないと!