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「宇宙」と聞くと、遠いところというイメージがあるかもしれません。でも、国際航行連盟は、高度100kmから上空が宇宙と定義しています。
100kmと言えば東京―熱海ぐらい。意外に近いと思いませんか?その宇宙への旅が今、大ブレイクしようとしています。
旅行代金を準備すれば、誰でも宇宙を楽しめる時代がようやく訪れようとしています。
しかも旅先や、どんな船で行くかも選べるようになってきました。そこで宇宙旅行にどんな種類や楽しみ方があるのか、
どんな準備が必要なのか。目的地別に紹介していきましょう。
まずは一番お手軽な旅から。宇宙の入り口である高度100km付近へ上昇し帰ってくるコースです。アメリカの民間会社が2005年から宇宙旅行販売をスタートし、既に世界で約600人が旅行を申し込んでいます。旅行費用は25万ドル(1ドル106円として2650万円)。2020年にもいよいよ宇宙旅行がスタートすると見られています。
宇宙船スペースシップ2は乗客6人とパイロット2人が乗る8人乗り。3日間の訓練を受けた後、米国ニューメキシコ州にある専用宇宙港スペースポートアメリカから離陸します。ロケットのように垂直に発射されるのではありません。宇宙船は母船ホワイトナイト2につりさげられて飛行機のように、水平に離陸します。高度約15㎞まで上昇したら宇宙船を分離。マッハ3.3で宇宙空間を目指します。体重の約3.3倍の重力が短時間かかりますが、ぜひ窓の外の大気の色の変化に注目してください。
コバルトブルーからダークブルー、そして漆黒の宇宙空間へ。宇宙に到達する頃には無重力状態です。その間約4分間。重力から解き放たれた開放感を全身で感じながら、空気がないため瞬かない星々や、眼下に広がる地球、その薄い大気層などの絶景を堪能してください。
地球を背景に写真を撮りたいところですが、「ぜひ自分の目で地球を見て欲しい」と宇宙飛行士たちは口をそろえます。そして地球へ。滑走路に水平に着陸し、約2時間の宇宙の旅は終了です。
今年中に宇宙旅行を販売すると見られている、ライバル社も存在します。カプセル型の6人乗り宇宙船ニュー・シェパードは一人一人のシート横に窓が大きくとられ、眺めは最高。ただし、パイロットは乗りません。遠隔操縦が同社の宇宙旅行の特徴です。垂直に打ち上げ後、人が乗るカプセルが切り離され宇宙へ。約4分間の無重力状態後、パラシュートを開いて着陸します。マネキン人形を乗せて試験飛行を行う様子が何度も生中継されていますが、飛行中は揺れや振動も少なく、飛行はとても安定しています。
この旅で準備するものはカメラぐらい。スタイリッシュなフライトスーツも準備されます。宇宙にいる数分間はあっという間なので、どう使うかは事前にシミュレーションしておくといいでしょう。
数時間の宇宙旅行では物足りない。せっかく宇宙に行くなら宇宙に滞在して無重力状態での食事や睡眠も体験したい。移り行く地球や宇宙の眺めを堪能したいという方へ。
高度約400㎞を周回する国際宇宙ステーションへの旅も販売されています。ロシアの宇宙船ソユーズで往復しISSに数日間滞在する約1週間の旅は2000万ドルから(最近は8000万ドル=約85億円とも)。これまでに7人の富豪が宇宙旅行を実現しています。
ISS生活での醍醐味は無重力状態での衣食住と、自分自身の身体の変化、そして宇宙や地球の眺めでしょう。宇宙食は約300種類のメニューがあり、ステーキや照り焼きチキンからスープやデザートも選べます。ISS内はシャツ姿で生活在できるよう温度湿度が快適に保たれていますが、日本人にはやや寒く感じるそう。温かめの服装を用意するといいでしょう。洋服は綿100%が基本。フライトスーツが支給されますが審査に通れば持ち込みもOK。静電気が起きなければ化繊でも大丈夫です。山崎飛行士は法被(はっぴ)のような着物を持って行き、手巻き寿司パーティで着ていました。
無重力状態では肩こりがなくなり、身長がのび、体液が上半身に移動するので、ウェストが細く、スリムになるそうです。また顔は多少丸くなりますが「しわが目立たなくなるのが嬉しい」と山崎飛行士。ただし、ISS内は乾燥しているので保湿クリームを持参し、こまめに塗ることをお勧めします、とのこと。無重力状態でぷかぷか浮かびながら寝るのは本当に気持ちがよく、短時間でもぐっすり寝られ、質のいい睡眠が得られるそうです。
ISSは、秒速約8㎞(東京―大阪を1分で飛ぶ速さ)で飛行しているため、90分ごとに日の出と日の入りが訪れます。朝焼けや夕焼け時のダイナミックな光と色彩の変化、寄せては返す波のようなオーロラ、眼下に流れる流れ星を探すのも楽しいでしょう。
ISSへの旅については、アメリカの民間宇宙船を使った旅行も解禁になりそうです。NASAは今年、民間宇宙飛行士を最大30日、ISSに受け入れることを発表したのです。選抜や訓練は民間企業が行うことになりますが、一泊当たりの宿泊費は3万5千ドル(約370万円)。宇宙食やトイレ・運動器具の使用も含まれます。1か月としても1億1千万円ほど。地上の豪華ホテルと比べてもそれほど高くはありません。ただし、アメリカの民間宇宙船による送迎費用が5800万ドル(約61億5千万円)。飛行を重ねれば安くなる可能性はあります。
ISSへ持ち込める荷物は重量制限が厳しくソユーズ宇宙船の場合、5Kg以下。化粧品はアルコールフリーのものを。パウダー状のファンデーションはNG。なお、山崎飛行士が飛行した2010年はISS内はスマホによる撮影や通話は原則禁止だったそう。宇宙旅行客が増えて、このあたりも緩和されることを期待しましょう。
地球から遠く離れ、宇宙空間にぽっかり浮かぶ丸い地球を見てみたいなら、さらに遠くへ。月への旅も現実的になってきました。日本の大手ファッション通販サイトを運営する社長が、2023年に米民間企業による月周回旅行を目指すことを発表し、大きな話題を呼びました。
いったい、どんな旅行なのでしょう?宇宙船Starshipはアメリカ・フロリダ州から打ち上げ予定で、発射約38分後には月に向かう軌道に入ります。約二日後には月に接近。月に着陸はしませんが、月の至近距離を飛行。人類初の着陸地点「静かの海」や月面で最も美しいと言われるコペルニクスクレーターなどをしっかり眺めたら、いよいよミステリーゾーンである月の裏側へ。月は常に同じ面を地球に向けているため、その反対側は地球からは決して見えません。秘境とも言える場所を、しっかりと目に焼き付けましょう。
旅のハイライトはその後。月の裏側から表側に移動する際、月の地平線から地球が昇ってくる、「地球の出」は今から約50年前のアポロ宇宙飛行士しか眺めていない絶景です。
地球から見る月が三日月や半月、満月と形を変えるように月から見る地球も形を変えます。満地球は、地球で見る月の約60倍から80倍の明るさがあると言われます。青い海と白い雲、赤茶けた大地・・。モノトーンの月面から眺めると生命にあふれる故郷・地球は美しく、愛おしく見えるのではないでしょうか。打ち上げから5日間23時間後に地球へ帰還します。
月旅行のためにどんな準備が必要でしょうか。せっかく月に到着したときに自分の心身面をベストにして満喫したいものです。宇宙に行くと半分近い人が宇宙酔いという船酔いに近い状態になり、頭痛や吐き気に悩まされると言われます。酔い止めの薬を飲んだり、あらかじめ無重力飛行をジェット機などで体験し、慣れておくことも必要でしょう。
何を持って行くかより、旅を楽しむために健康状態をベストにしておくことが最も大切です。
※掲載された宇宙旅行の内容は、変更される場合がございます。本文中における会社名、商標名は、各社の商標または登録商標です。
文/林 公代2019.09.03
林 公代(はやしきみよ)
福井県生まれ。神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団の情報誌編集長を経てライターに。NASA、ロシア等現地取材多数。『宇宙へ「出張」してきます』(古川聡宇宙飛行士他と共著、第59回青少年読書感想文全国コンクール課題図書)、『宇宙就職案内』『宇宙遺産 138億年の超絶景!!』など著書多数。
三菱電機サイエンスサイトDSPACEで、コラム『読む宇宙旅行』好評連載中!