こしょうがつ小正月
お正月の「松の内」という言葉に対して
小正月の期間を「花の内」とかわいらしい名前で呼ぶことがあります。
小正月はお正月のあとにやってくる小さな祭り、あるいはお正月の神様をお見送りする行事というような印象が強く、どちらかというと忘れ去られていく流れの中にある行事の一つかもしれません。
その一方で、木を削り作る「削り花」や、餅を木や藁につける餅花など、実は現在のお正月よりも多様で複雑、そして華やかな習わしが今も数多く全国各地に残っています。
昔の人々がどんな気持ちで、新しい一年を迎えていたのかもっと親密に感じてみたいとき、小正月にはたくさんの宝物が眠っています。
また、古い時代の日本では満月を中心とした祭りが多く、煌々と照る月明かりの中、祭りは行われ、今もその名残が日付に残っています。
たとえば、七月十五日のお盆、十一月十五日の七五三。
小正月は一月十五日ですから、やはり昔の暦でいうと満月にあたり、
本来のお正月の中心が、一月十五日だったと考えられています。
それが華やかな習わしが小正月にたくさん残っている理由の一つです。お月様を中心にしためぐりの日々がありました。
一月一日を一年のはじまりとするお正月は、大陸から渡ってきた暦とともにやってきた考え方。
一月十五日、満月の日を一年のはじまりとしていたのは古い時代の日本の考え方。
大きく分けて二つの考え方が、悠久の時を経てゆったりと交じり合い、現代のお正月へとつながっています。
新しい年を無事に幸せに生きるための大事な節目の行事として、今も多くの人の暮らしの中に息づいています。
椿枝の餅花
椿の大枝に、花に見立てた白餅をつけて餅花に。
餅花は、正月や小正月、節分などに行う習わし。柳、藁、桑などの木の枝に餅をつけて、花が咲くのに見立てる。
花咲く前、実る前に、あたかもすでに花がひらいたように、あるいは実りを得たようにかたちづくることで、豊作になる力が発動されるという考え方、古くからある日本の信仰、予祝の一つ。
枝に餅をつけていくうちに、花やさまざまな実りや思いがふくらんでいくのが餅花の醍醐味。
今回は椿の枝を石臼に立て、縁取りのある隈笹、豊かに実った稲穂を添えたかたちに。
松包み
一月はじめや、小正月の頃、さまざまなところでお田打ち、サツキなどと呼ばれる祭りや風習がある。
青々とした松葉を稲に見立て置いたところに籾をまいたり、田植えや稲の収穫などに見立てた踊りや所作を行うなどする。
そうすることで、一年の実りを占い、その年の収穫が豊かになるよう目に見えない力をはたらかせようとする。
今回は、稲に見立てた松の葉をひとつひとつ集めて束ね、生成りの奉書で包み、しめ縄に拵えた藁で結び、力の宿る松包みのかたちに。
道具の年取り
お正月や小正月には、人間だけでなく、馬や牛など、そして暮らしの中で使っている道具のためにも、年越のお供えを行っていた。
臼のまわりに道具を並べてお供物をしたり、
鍬や釜、包丁や桶なども一緒に一年をしめくくり、無事に新しい年を迎えられるよう、年取り(年越し)をする発想がある。
小さな餅を重ねたり、餅花の小枝を置いたりするなど、各地に様々な形がある。
時に害をもたらすネズミなどもともに年越を、という発想があるのは、彼らを神の使い、あるいは神の仮の姿だと考える向きがあったからである。
今回は古桝に小さな餅を入れて、姫榊、南天の実、松などを添えてお道具のためのお供えとした。
餅飾り
小さな丸餅に、青藁で拵えた左縄のしめ縄を通す。
普段の縄のつくりが右に綯う右縄であるのに対して、
ハレの日の縄は左に綯うのが一般的。
日本人にとって主食である大事な米をぎゅっと凝縮したのが餅。神聖なちからが宿るものとして、様々な行事に登場する。
餅飾りは正月や小正月のお供物の一つ。
新しい年を無事に幸せに生きるための力を授けに訪れるお正月の神さまの力を宿すといわれ、それをお年玉として一人一人に配る習わしがあった。
白餅に長く花をつける山茶花、万両の実などを添え、八寸に。
しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.01.11