和の暮らし歳時記 2023和の暮らし歳時記 2023

2023年2月 せつぶん節分

季節と季節をつなぐ境界線には災いや邪気が忍び込む。
そういう発想から生まれたのが節分です。

邪気に見立てた鬼を払うために智恵と工夫をこらし、祈りをこめた供物やしつらいもの、そして多くの祭りが各地に見られます。
おうちの中でも、魔を祓う武器に見立てた刺のある柊などや、燃えると葉や音を出すもの、そして強烈な匂いを発するにんにくやネギなどなど。あらゆるものを駆使して、邪気払いをし、お飾りやお供えをします。

境界は、季節だけでなく、たとえば国の境目、町の境目、家と家との境目、人と人との関係の間などなど様々な場にあるものです。
あらゆる場の境界線を思い浮かべてみれば揺らぎのある場であることに理解が至ります。
そしてそこは昔も今も災いや迷い、あるいは争いなどが入り込みやすい場所。
問題が起きないようにと願い、避けるための工夫をしようという昔の人の考えが、より身近になってきます。

ちなみに煎った大豆を用いるのは、邪気や悪いことの芽がでないようにするため。清浄な力を持つと考えられた火であぶります。
一般的には「まめ」という言葉が魔を滅すると同じ言葉の音ということで、言霊を用いようとした由来がよく聞かれますが、
米などに次ぐ大事な食である大豆を使うのは餅や米を霊力の宿るものとしてお正月のお供物とするのと同様の意味がありました。
豆まきも、力のあるものをまくことでその場を清めるというような説も。
手と心を動かして、冬と春の大きな節目、境界線を楽しみながら越えていく。節分はそういう時間でもあります。

柊立てと豆飾り

大枡に煎り豆をたっぷりと入れ、
柊の大枝を立てて、豆殻を仕込む。

刺のある葉、豊かな実りそのものを表す
大豆、魔を滅する豆など、
ことばの持つ力、かたちの力など
あらゆる自然の霊力をいただく。
道具に枡を用いるのは、馴染みのある生活道具でもあったから。
そして「ますます」幸いが訪れますように、などの言霊を働かせるためでもある。
大豆は米などの主食に次いで日本人にとり大事な食物であることから、米や餅と同様、霊力の籠るものとしての意味もある。

椿の花供物

漆塗りの高坏に椿を乗せて花供物に。
冬と春をつなぐ笹、
隈笹を添えて、後光に見立てる。

椿の枝を植えて歩き数百歳の長寿を生きたという八百比丘尼の伝説など、古くから神聖な力の宿る木の一つとされてきた椿。
華やかな花、艶々と輝く葉、滑らかな枝。
椿はすべての魅力を兼ね備えた草木の一つである。
また厳しい寒さの中でも緑を保つ常緑であることからも、不思議な霊力を持つともいわれ、多くの草木が眠るまだ暗闇に覆われた静かな森に明かりを灯すように咲いて、希望のある方へ、春へと導く花である。

節分の柱飾り

姫榊に豆殻を束ね、冬菊を添えて柱に掛ける。
関東などでは神事やお祓いなどに用いる姫榊を軸に、振ると音をたて、花のようなかたちに踊る豆殻を用い、節分の邪気払いに。
冬と春をつなぐように咲いている冬の野菊も添えてみる。
一年を通し、日本の年中行事には、薬玉や祝いの松など、柱に飾りつけをしたり、邪気払いを掛けることがよくある。
家の要である柱に掛けたり下げたりすることにより、大事な場を守り、中心に神聖な力がはたらくことを望む心をあらわしている。

梅の蕾茶

縁紅の和紙を折り敷いて、梅の蕾茶をしつらう。
咲きはじめの凛とした梅の花枝を添えて。
縁紅はその名の通り、四方を紅色に染めた紙。
お祝いやお目出度いハレの日に用いる。
小鳥たちも、草木も小さな虫たちも眠り、
静寂に包まれていた冬の扉を開けるのは梅の蕾が開く時。
放つ香りは微かであるのに、すうっと大切なところに運ばれていき、よい塩梅に届く。
そんな梅の香のように、物静かで味わい深い力をいただけますよう祈りつつ、梅の蕾を茶にして味わう。

しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.02.02