和の暮らし歳時記 2023和の暮らし歳時記 2023

2023年5月 たんごのせっく端午の節供

賑やかな桜と春の草花の百花繚乱がひと段落すると、景色はさまざまな緑系の色に染まり、季節の主役は新緑へと移っていきます。乾いた風は肌に優しく心を軽やかにして、木々や建物、そして歩く人々の間を通りまるで淀みのあるところを祓い清めていくように吹き抜けていきます。

ただ、外に出て、窓を明けてその心地よい風に身を委ね、楽しむ期間はそれほど長くはありません。
夏を思わせるような厳しい日差し、そしてじめじめとした梅雨がそう遠くないうちにやってきます。
現在の新暦でいうと、五月は爽やかなという印象の季節だけれど、旧暦でよめば昔ながらの五月は現在の六月から七月であるから、梅雨の真っ只中となります。

時代を遡り風土を旅するように行事を眺めるなら、端午の節供を行う理由も様々で、俯瞰してみるなら、その多様性は現代に生きる私たちに迷いをもたらすこともあるでしょう。

たとえば、端午の節供を行う理由も、男の子の行事としてたくましさや勇敢さを願う時代もあれば、健康や長寿を祈り、薬草を採る習わしがある時代もありました。
菖蒲を頭に巻いて身に付けることで邪気や災いを払うと信じ、宮中で行っていた時代もあります。
田植えをする役割の女の人が心身を清める習わしがあるところも。

1人1人の生活が多様になった今、端午をはじめ、懐かしい行事が自分にとってどんな意味を持つのか、あらためて選択できる自由で緩やかな時代が訪れています。

薬玉の瓶子仕立て

花を丸く束ね、玉のように結び、瓶子に入れて薬玉を象る。
古代紫の飾り紐は菊花結びに。

薬の玉と書く薬玉は、薬草や時節の草花を丸くあるいは様々な形に結んで柱や御簾などに掛けたり吊したりしたもの。
身に付けると悪い気を避けて寿命が伸びるとされた中国の飾り、「長命縷」の影響を受けて作られるようになったというけれど、形は似ていない。
枕草子、源氏物語などの描写から、贈り物にするなどしていたことが伝わってくる。

古くは「玉」という言葉には美しく価値のあるもの、優れているもの、呪力を持つものという意味を含んでいた。

石楠花の薬玉

石楠花は、旧暦の花まつりなどで行われる習わし、「天道花」に掲げる神聖な花。
花びらは華やかに開いているけれど静かな和の趣があり、ずっしりと重みを感じる花である。

その石楠花の花と葉を束ねて端午の節供を象徴する植物である菖蒲の葉をつなぎ、下げる。
神聖な花と生薬のある赤い根を結ぶうちに、菖蒲の芳香が辺りに放たれる。

邪気避けのかたち、薬玉に香りが加わり、見えないものまで届くような力のあるしつらいに。

飾り粽

端午の節供でおなじみの食の一つ、粽を束ね、飾り粽に。

青々とした笹の葉に黄飯を包み、イグサで一つ一つ巻き上げたものを三方向から寄せて束ね、山型に合わせる。
頂をつくるように仕立てるのは古くからあらゆる場面に山への信仰があったからーーー。そういう説がある。

遠くや近くの山を眺め、昇り沈む太陽や山の端に消えていく月を眺める暮らしから生まれた祈りが、様々なしつらいやお供えのかたちに今も残る。

今回は粽を山型に合わせたところに日本の代表的な薬草である蓬を添え、依代の軸に松を立ててみた。

初夏の忍冬包み

忍冬はスイカズラとも呼ばれる初夏の薬草。

端午の節供は薬の日でもあるから、初夏を象徴する生薬である忍冬を和紙で花包みにして、三宝に置き、時節の供物にする。
菖蒲同様、芳香の強い植物だがより甘く爽やかで気分を和らげてくれる。

御供物を下ろすとき、ひと花、ふた花、水に入れてつくるスイカズラ水はほんのりと甘く美味。

季節の力をいただくというのはこういうことなのだと体感する御さがりになる。

しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.05.11