和の暮らし歳時記 2023和の暮らし歳時記 2023

2023年7月 たなばた七夕

新暦の七夕は梅雨の真っ只中にやってまいります。

古くから行ってきた「七月七日」という日取りを大事にするため旧暦から新暦へと日々の生活の中で使用する暦が変わっても日付はそのまま用いたために、季節感が昔とは異なります。

そうした事情と合わせて長い年月に渡り、愛されてきた行事だから習わしもお供物も多種多様。
謂れやその源流となる考え方、信仰も土地や時代によって様々です。

現在は中国大陸に源流がある星伝説の物語、織姫、彦星の逢瀬を元にした七夕を楽しむのが一般的ですが、今も各地に残る七夕の風習を紐解いていけばお盆の準備をする期間であったことを示す習わしが多く、大切な日を迎える前の邪気払いや形代の信仰が垣間見えて七夕とお盆がひとつながりであったことが今も伝わってまいります。

行っていた季節が現在と以前では異なるためにさまざまな意味が混在して源流を体感することが難しくなった一方で、ひとりひとりが自分らしく七夕を楽しむ選択肢は増えたと捉えることもできます。

重ねてきた行事がどんなふうに続いていくのか、その可能性が無限の星空のように広がっています。

七夕花扇

花扇は七夕の朝、近衛家から宮中に献上したことが由来の花束。
七種、あるいは様々な草花を束ね、檀紙で包み扇型にして水引などで結ぶ、宮中の習わしの一つ。けせん、とも呼ぶ。

今回は姫桧扇水仙の葉、桔梗、白花の百合水仙などを束ね檀紙と精麻で包み、七夕の御供花に。

宮中では池に浮かべたり鴨居などに掛けたりしたという。
大事な柱や台に置いてしつらえば、時節の花の力を間近に感じる七夕の供物となる。

七夕人形

七夕人形の一つ、おるすいさん。
着物を着せた人のかたちに風に吹かれて、ゆらゆらと揺れる幣や紙垂のような紙飾りが下がるのが特徴の一つ。
他の七夕飾りと一緒に笹竹にさげるなどしてしつらう。

七夕人形は様々な意味を持ち、地域によりかたちも願いごとも多様な形を見せる。
たとえば、もっとよい着物が手に入りますように、こどもが健やかに成長しますように、あるいは、自分の身代わりとして病気や災害から守ってくれますように等々。

おるすいさんは七夕を終えたあと、紙に包んで箪笥などにしまっておくことで家の留守を守ってくれるという言い伝えがある。
中世、江戸初期に将軍が出かけた際、責任を持って留守を預かる役であった「御留守居」役を連想させるいわれである。

かささぎの御神酒口

七夕の由来にちなむ鳥である「鵲」が羽ばたいているがごとく雄雌、檀紙で拵える。
星のような花を咲かせる姫桧扇水仙と天の川の星が散りばめられたような柾木の花を添える。
御神酒口として白い瓶子に入れるのは、七夕の供物とするため。

鵲は一年に一度だけ許された織姫、彦星の逢瀬を支えるために天の川に羽をその羽を広げ橋渡しをしたという謂れあり。
様々な力を留めるために瓶子の口は精麻で結ぶ。

七夕素麺

五色の素麺を水引で結び七夕にちなむ小さな梶の葉を添え、白い高坏に置く。

中国から伝わった七夕のお供物の一つに索餅がある。
小麦粉や米粉を練り、縄の形にしたものだが、無病息災を願うという。その索餅が素麺に変わり七夕に供えるようになったという説がある。
素麺のことを昔は索麺と呼んでいたことと符号するように思う。

また、七夕の由来の一つにさまざまな技や芸能の上達を願うという乞巧奠があるが、それにちなみ、素麺を糸に見立てたことが由来という説などがある。
お盆のお供物としても素麺があることから、七夕とお盆のつながりが感じられる習わしである。

しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.07.03