おぼんお盆
お盆はご先祖様や精霊、そして無縁のものをお迎えし、もてなしお見送りする行事です。
七夕と同じように旧暦の日づけで行うことを大事にして7月15日を中心に行う地域と、昔ながらの季節感を大事にしようと考えられた月遅れの日づけ、8月15日を中心として行う地域があります。
どちらも13日にお迎えして16日にお見送りするのが一般的ですが、目にみえない世界から私たちの住む現世へと旅する精霊を支え、しばしともに過ごすためのしたくをします。
時代や地方により風習の決まりごとは多種多様ですが、さまざまな習わしを俯瞰していけばその軸にある気持ちの動かし方には共通のものがあるように感じることでしょう。
暗闇を無事に歩けるようにとほおずきを灯りに見立てたり、滋養のある美味しい季節の一番よいもの、よいかたちのものをお供えにする。
あるいは庭や野を見回して美しさばかりではなく山や野など自然のちからを宿している草花を見繕い、手と心をはたらかせてこの旅を楽しんでもらおうと心を尽くす。
そうしてしたくをするうちに生きている私たちも力をいただいて疲れていた心も暖かくなる。お盆はそんな行事でもあります。
精霊馬
藁が手に馴染むように、ゆっくりと柔らかくして馬のかたちに拵える。
お見送りする時のことも考えて、できうる限り自然由来のもので結び整え、お迎えとお見送りにふさわしいところにお供物と一緒に置く。
精霊馬はお盆に帰ってくるというご先祖さまやその他の精霊のための乗り物。
どうぞこの馬にのって帰ってきてくださいと心を配るお盆の習わしの一つ。
精霊馬には藁の他、キュウリやナスなどの野菜、茅、真菰など、さまざまな素材が用いられ家々や地域により多様な形が見られる。
盆の舟
真菰を舟のかたちに結んで精霊の乗り物の一つに。
舟に仕込むものは心尽くしに。
道中の足元を照らす灯りには赤いほおずきを。
彩り豊かな旬の果物や野菜、見えないものと見える世界をつなぐために植物の蔓。
帆に見立てるのは神聖な力を宿すという笹竹の葉を。
心をはたらかせて様々な祈りを拵えた舟に乗せてお迎えするためのしたくに。
お見送りの際はすべて舟に包み川や海に流すところもある。
舟の素材は藁、茅、笹、紙など。形も多様で、雛祭りに用いる桟俵などの場合もある。
旅じたく
旅傘に夏の花、ヒメヒオウギスイセンを添えて旅の手向の花に。
旅傘は精霊の旅を支えるしたくの一つ。
草履や扇子を添えて初盆の迎えとするところも。
旅の無事を祈るのは今も昔も同じ。
花を添えるのは美しいものを添えるだけでなく、実りを迎える前の先触れとしての意味を持つ。
目に見えない旅がいつかよい実りをもたらすものでありますよう。
盆の花
お盆に由縁のある花、ミソハギ、高野槙、榊などを合わせ結び、小さな盆花に。
ミソハギと高野槙は水にひたし、そのしぶきをまけば場を清めると信じられた草花。
玄関などの入り口やしつらえた盆棚のそばに置くなどする。
古く盆花は自ら庭や野や山に入り、どんな花を手向ければ精霊が喜ぶか力をはたらかせてくれるかと思いを巡らせて見繕うもの。
今回は精霊にも涼をとってもらうためにガラスに入れて涼やかに。
しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.08.01