和の暮らし歳時記 2023和の暮らし歳時記 2023

2023年9月 つきみ月見

新暦で行う年中行事が多い中で、十五夜や十三夜は今も旧暦の暦で行う数少ない行事です。

十五夜は旧暦の8月15日の日、十三夜は旧暦の9月13日。

旧暦で行うということは毎年日付が違うということです。
ちなみに2023年の十五夜は9月29日、十三夜は10月27日になります。
中国から伝わった中秋節と、同じ頃長く日本で行われてきた収穫にまつわる祭りが、長い年月をかけて混じり合い、重なり合い習合して今へとつながっています。

現在、月見といえば、一般的にはこの二つの日を示します。
ただ、日本には十五夜や十三夜だけでなく、三日月や有明月など様々なかたちの月が昇ってくるのを待ちながら皆で過ごす、「月待」という習わしがありました。

花をお供えし、お団子やおいしいご馳走を用意して皆で集い、団欒のひと時を持ちました。
中には女性だけで集まったり、お経を唱えたり。その土地により様々なスタイルの月待がありました。

大きな括りで言うと、十五夜や十三夜も月が昇ってくるこうした行事の一つと考えてもよいでしょう。

時代が大きく移り変わる時も変わらずに夜の闇を照らしてくれる存在が月、という星。
長い年月の中にあっても同じように空を仰ぎ、祈る気持ちには時を越えていく不変のものがあります。

月待ちの供花

花縮紗の花を里芋の葉と合わせて経筒の花入れに。

七夕には天の川のしずくをたくわえてくれるという里芋の葉もすっかり大きく育ち収穫まであともう少し。
太陽を求め四方へと向かう茎も滑らかな流れに。

昼に夜に芳香を放つ花縮紗の花。
月夜の下でも花を開いて純白に輝いている。

二つの花葉を合わせて縁側に置き清らかに闇を照らしてくれる星、月が昇ってくるのを待つ間のお供えの花に。

十五夜花

お月見にお供えする花のことを十五夜花と呼ぶところがある。

月に捧ぐ花は月の力を宿す依代であるという考え方がある。

勢いのあるススキの穂と葉に秋の七草の一つである桔梗を添え神具の白瓶子に入れて今年の十五夜花としてみる。

古い時代はススキに限らず十五夜を迎える頃、その土地でその季節に咲いているよい花を見繕いお供えの花としてきた。
現在の秋の七草はもちろんのこと、紫苑などを添える地域も。

月見にはその土地、その家それぞれの花がある。

月の花

月見では月のかたちに見立てたもの、あるいは、その白さを思わせるものをしつらうことがある。

さえざえとした色の青竹を割り、花入れに。
月に見立てたのは木槿の花。笹、露草の葉と合わせて霧を吹いておく。
暑い盛りの間、ずっと咲き続けてきた純白の木槿。

花には大きいもの、小さいものがあり、そして月と同じように様々なかたちを見せてくれる。

のぼってくる月と眺め合あわせ、見比べるのが楽しみな花となった。

尾花の箸

ススキには尾花という名前がある。

尾花の茎を整えて、箸を拵え、奉書の箸入れに入れて三宝にのせる。その年、収穫した新穀の穂を添えて月見のお供物のひとつに加える。

ススキで箸を作る理由はその年の豊作を祈り、邪気払いにするため。

拵えた箸は庭にさしておいたり、あるいは箸を使って食べたり、食べる真似をするなど、実際に使う習わしがある。
ススキの他にも萩や笹などで箸をつくる風習は他の行事などにも見られ、箸と植物に対する信仰が土台にある習わしである。

しつらいと文/広田千悦子 写真/広田行正
2023.09.04