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最近よく耳にする「脱炭素」「カーボンニュートラル」という言葉。
これは、二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにしていこうという、世界的な取り組みのことを言います。その中で注目を集めているのが、効率的に空気や水を温めたり冷やしたりすることができるヒートポンプ技術。
「三菱 エコキュート」や「霧ヶ峰」など、身近な製品に搭載されているヒートポンプについて、まずはカンタンな事前学習からはじめましょう。

ヒートポンプってどんな仕組み?

ヒートポンプはその名の通り、熱(ヒート)を汲み上げる(ポンプ)装置です。具体的には、自然の空気中にある熱を取り入れて圧縮することで高温にして、その熱で給湯器なら水、エアコンなら部屋をあたためる仕組みです。

エコキュートの仕組み

ヒートポンプが優れているのは、給湯器で例えると「1」の電気エネルギーを使って「2」の空気の熱を汲み上げ、合計で「3」の給湯エネルギーを得ることができる点にあります。これはつまり、電気エネルギーだけでお湯を沸かすのに比べ、消費電力量は約1/3になるということなのです。

社会見学

IoT

編集部員たちが向かったのは、神奈川県鎌倉市大船にある三菱電機の研究所地区。三菱電機グループの幅広い事業に関連するさまざまな研究開発が行われている場所です。
その敷地内に、突如として現れた戸建て住宅。多くの研究所棟が立ち並ぶ中、ごく普通の一軒家が建っているのには、編集部員一同も驚き。今日は、この中でヒートポンプがどのように私たちの暮らしに役立っているのかを見学できるということです。

  • こちらの施設は一般公開されていません。
増田さん(以下敬称略)

はじめまして。本日みなさんをご案内する、電材・住設家電事業部ホームソリューション推進部の増田正一郎です。

よろしくお願いします。本当に“普通の家”が建っているんですね。

増田

そうなんですよ。驚きましたか?(笑)
ここは、さまざまな家電や住宅設備と、三菱電機家電統合アプリMyMU(マイエムユー)を介したホームソリューションを提案する場所で、「IoTホームソリューションラボ」と言います。
来場頂いた方にリアルなご提案ができるように、実際に生活ができるくらいの環境を整えています。
IoTとは、 “Internet of Things”の略で、家電やモノがインターネットと繋がる技術のことです。

それはワクワクしますね。では早速ですが、この住宅の中にあるヒートポンプ技術を使用した製品を見せていただけますか?

増田

まずは、リビングから。こちらは、みなさんお馴染みのエアコンですね。ここ神奈川県は温暖地域ですが、もっと寒い地域でも暖房できる「ズバ暖霧ヶ峰」という機種もあるんですよ。外気温が-15℃でも最高約60℃(ハイパワー運転時)の温風を出すことが可能です。

それは凄いですね。ヒートポンプは空気の熱を集めて使う、とお聞きしたのですが、そんなに冷たい外気でも大丈夫なんですか?

増田

驚かれるかもしれませんが、大丈夫なんですよ。取り入れた熱を圧縮するコンプレッサーも大容量なので、極寒でも省エネかつパワフルに運転することができます。

続いて、キッチンに来ました。冷蔵庫ですね。これにもヒートポンプが?

増田

そうです。ヒートポンプはあたためるだけでなく、冷蔵庫やエアコンの冷房のように冷やすこともできます。冷やすときは、あたためる時と逆の順番で冷蔵庫内の熱を奪うことで冷やしていきます。夏の夕方に打ち水をすると、涼しく感じるのと同じ原理ですね。

なるほど、ヒートポンプはあたためることも冷やすこともできる、まさに二刀流なんですね。

増田

はい。そして、とてもエネルギー効率が高いので注目されている訳ですね。ちなみに、こちらの冷蔵庫は、幅・奥行はそのままで容量がアップした「中だけひろびろ大容量」タイプ。庫内も見わたしやすく、整理も出し入れもしやすい仕様になっております。断熱性を保ったままウレタン部分を薄くできたことで容量アップと高い省エネ性能を両立しました。

増田

皆さん、次は足元に注目してください。先程二刀流という言葉が出ましたが、皆さんが立っているフローリングには、三菱ヒートポンプ式冷温水システム「エコヌクール」が設置されています。風を使わないので、暖房では陽だまりにいるように身体の中から暖まることができ、冷房では自然な清涼感を得ることができるんですよ。

ここのヒートポンプは、まさに縁の下の力持ちと言えますね。

増田

最後は、家の外に出てきて頂きましたが…「エコキュート」です。エコキュートのヒートポンプユニットは、エアコンの室外機に外観が似ていますね。外の空気から熱を集めて、その熱を水の沸き上げに利用します。横にある背の高い貯湯ユニットは、そうして作ったお湯を貯めておくタンクになっております。

「ヒートポンプユニット」と「貯湯ユニット」のセットでエコキュートなんですね。

増田

そうです。貯湯ユニットからは災害などの非常時にお湯(水)を取り出して生活用水として活用することもできます。

本当に身の回りの至るところで、ヒートポンプ技術が使われていることがよく分かりました。
先程IoTのお話がありましたが、これらの製品はインターネットとつながっているのですか?

増田

三菱電機の家電統合アプリMyMUを介してつながっております。
例えば、冷蔵庫では給水タンクの水がなくなる前にお知らせをしたり、ドアの開閉回数で離れて暮らす家族の使用状況なども分かります。エコキュートでは、遠隔でのお湯はり操作ができます。
さらに太陽光発電があれば、翌日が晴れの天気予報の場合、その日の夜間のわき上げを減らして、翌日の日中に太陽光の余剰電力を活用してわき上げるという賢い使い方もできます。

IoTによって、エコなヒートポンプの効率性がさらに高まるのですね。

増田

そうですね。いまは様々な家電や住宅設備がIoTやAIの技術を持って、クラウド上で通信・連携しながら暮らしのクオリティを高めてゆくという新しいフェーズに入っています。
再生可能エネルギーの更なる発展と共に、今後は限りあるエネルギー供給の中で、家電や住宅設備の使い方を工夫して、電力の供給と需要をバランスする、デマンドレスポンス技術がサステナブルな社会実現に向けてのひとつのキーになると考えています。

本日はとても勉強になりました。ありがとうございました。

技術者インタビュー

ヒートポンプ技術は、エアコンや冷蔵庫、給湯器など身近なところで日々活躍していることがよく分かりました。次は、三菱電機ならではの技術や海外における事業展開について、ヒートポンプを製造している技術者にインタビューしました。

山下さん(以下敬称略)

はじめまして。三菱電機 静岡製作所で開発を担当している山下祐也です。

本日はよろしくお願いします。静岡製作所は今年2024年で創立70周年を迎えると聞きましたが、ヒートポンプはいつから生産しているのでしょうか?

山下

はい、1954年に創業して冷蔵庫、ルームエアコン、業務用エアコンの生産を開始したので、それらに搭載されるヒートポンプも同じく70年前からになります。
ちなみに1967年に「霧ヶ峰」、2001年に「エコキュート」が誕生し、現在では弊社群馬工場と共に生産を行っています。

霧ヶ峰初号機
(1967年)

霧ヶ峰 FZシリーズ
(2024年)

三菱 エコキュート Pシリーズ
(2024年)

「霧ヶ峰」は50年以上つづくロングセラー製品ですね。
その間、ヒートポンプ技術も進化してきたと思いますが、三菱電機独自の技術としては、どのようなものがあるのでしょうか。

山下

はい、ヒートポンプの心臓部とも言える圧縮機の小型化と効率性を高める技術です。
特に、圧縮機の中にあるモーターに採用されている「ポキポキモータ」は、コイルの隙間を極限まで小さくすることで効率性を高めた、私たちの自信作です。

「ポキポキモータ」ってユニークな名前ですね。

山下

コイルを巻いた後に、「ポキポキ」と関節のように折り曲げて組み上げるのが特長です。

ポキポキと音が鳴るわけではないんですね(笑)
ちなみに、現在のヒートポンプへの注目度はどうでしょうか?

山下

おかげさまで社内外から高い注目を集めています。これからも引き続き、省エネ性向上に向けた製品開発や製造体制の構築強化をしていきたいと考えています。静岡製作所は、営業と設計、製造の各チームがひとつの場所に集まっているので、現場の情報をいち早く製品にフィードバックすることができる強みを活かしていきたいですね。

欧州を沸かす三菱電機のヒートポンプ

続いて、環境先進国の多い欧州においてヒートポンプはどう受け止められているのか、聞いてみました。

山下

欧州ではガスや灯油ボイラーで沸かした温水を家の中で循環させ、暖房として使用するのが一般的です。
しかし、欧州連合(EU)の脱炭素化政策や昨今の燃料費高騰もあり、今までの化石燃料を使用する燃焼式機器と置き換えられるヒートポンプの需要が高まってきています。
ちなみに、向こうではヒートポンプ式暖房・給湯器を“Air to Water”と言います。

トルコにある三菱電機の“Air to Water”生産拠点では、新たに工場を建設したそうですね。

山下

はい、トルコ以外でも生産体制の強化は進んでおります。
現在、私は“Air to Water”の開発に携わっているので、欧州における市場拡大に対応するべく、各国の拠点と連携しながら刻々と変化するレギュレーション(規制)に合わせた製品開発を行っています。

欧州で“Air to Water”市場の成長が著しい国はどこなのでしょうか?

山下

現在はドイツ、フランスが市場を牽引しています。三菱電機としてはイギリスでのシェアが高いです。

“Air to Water”での三菱電機の強みは何ですか?

山下

小型で低騒音であることです。日本の市場とは異なり、製品サイズと静音性を重視する欧州の市場ニーズに、いち早く応えられる製品作りが私たちの強みと言えます。三菱電機としても欧州市場への期待は大きく、需要拡大に伴い、製品規模・当社内の関わる人員も拡大傾向にあります。

まさにホットな話題ですね。本日は、ヒートポンプに注力する三菱電機の取り組みを詳しく知ることができました。
ありがとうございました!

サステナコラム

ヒートポンプのデマンドレスポンス実証実験

欧州の離島におけるエネルギー自立化の実証プロジェクト「REACT」に、三菱電機の欧州現地法人である「三菱電機欧州R&Dセンター」が参画。アイルランドのアラン諸島にヒートポンプをデマンドレスポンス(電力の供給量に合わせて需要量を最適化する手法)で制御するシステムを構築し、託児施設などの公共施設と住宅に合計6台の給湯・暖房用ヒートポンプを設置。再生可能エネルギーを活用した発電と、デマンドレスポンスによるエネルギー貯蓄や使用電力量の制御によって、導入前と比較して10%の省エネ、60%の温室効果ガスの削減、50%の再生可能エネルギーの利用率向上を目指しました。

「REACT」プロジェクトの全体像

欧州「REACT」プロジェクトで
ヒートポンプのデマンドレスポンス
実証実験を開始

社会見学を終えて―編集部員の感想―

ヒートポンプの仕組みから欧州での注目度まで、学ぶことが多かった今回の社会見学。
最後に、編集部員たちに感想を聞いてみました。

編集部員A

こんなにも身近なところに、ヒートポンプ技術が役立っているとは知りませんでした。再生可能エネルギーとも言われる空気の熱を利用するヒートポンプだからこそ、その仕組みやメリットを多くの人が知り、より普及することができればと思いました。

編集部員B

Air to Water事業を通じて、世界の環境問題解決に貢献していることは、一般的にはあまり知られていないと思うので、今回ご紹介出来て良かったです。そして、静岡製作所でまさにその開発を担う山下さんの言葉からは、強い熱意を感じました。静岡から世界へ!

編集部員C

身の回りの製品の取材から始まった本企画ですが、まさか欧州の離島でのプロジェクトにまで話が広がるとは想定外でしたね。また、独自の技術が活躍しているという話も誇らしかったです。ポキポキモータは誰が名付けたのか気になってしまいました(笑)

次回の社会見学もお楽しみに。

取材・文/澤村泰之 撮影/魚本勝之
2024.07.04

詳しくは製品サイトへ

三菱ルームエアコン
三菱冷蔵庫
三菱ヒートポンプ式
冷温水システム
エコヌクール
三菱 エコキュート
MyMUロゴ
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(マイエムユー)
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