和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう

その地域の産物を使い、独自の調理方法で作られてきた郷土料理には、日本の食文化の素晴らしさがたくさん詰まっています。「和食とは何か?」に迫った和食シリーズ企画第一弾に続き、今回は、日本全国の郷土料理を通して、食卓の未来について考えます。本企画は、産経新聞社様のご協力により、過去に産経新聞料理面に掲載された郷土料理から一部をご紹介しています。その地域の産物を使い、独自の調理方法で作られてきた郷土料理には、日本の食文化の素晴らしさがたくさん詰まっています。「和食とは何か?」に迫った和食シリーズ企画第一弾に続き、今回は、日本全国の郷土料理を通して、食卓の未来について考えます。本企画は、産経新聞社様のご協力により、過去に産経新聞料理面に掲載された郷土料理から一部をご紹介しています。

和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう

郷土料理は時代とともに進化する ~伝承料理研究家 奥村彪生さんインタビュー~郷土料理は時代とともに進化する ~伝承料理研究家 奥村彪生さんインタビュー~


2023年7月31日、伝承料理研究家の奥村彪生さんが永眠されました。
ご冥福を心よりお祈りいたします。

編集部
奥村さんは、日本で唯一の「伝承料理研究家」としてご活躍されています。これは何を目的とした、どんな研究なのでしょうか。
奥村さん(以下 敬称略)
かんたんにいえば、1万6500年前の縄文時代から今日まで日本人は何をどう食べてきたか、そして外来の食文化をどう選択し、時代とともにいかに変容、定着、進化させてきたかの研究です。僕の仕事は、それを次代に伝受していくこと。たとえば、奈良時代の古文書から料理を再現し、実際に食べてみたり蝋細工にして展示したり。その際になぜこの食文化は残っているのか、いないのか、どんな形で現代に伝えられているのかを考察します。ただ古い料理を紹介するのではなく、時代性を加味して今につなげることが大切なんです。
編集部
この道に進まれたきっかけは?
奥村
もともと僕は5歳の頃から煮炊きをやっていたので、料理の腕には自信があった。それで大学を中退して土井勝先生の料理学校に入ったところ、2ヶ月後には職員として迎えられてそのまま27年間務めました。その間に民俗学者・柳田国男のテレビ番組を見て民俗学に興味を持ち、近畿民俗学会に入って研究を始めた。そこで、村というコミュニティーが日本の食文化を築いてきたことに思い至るんですね。これがフィールドワークを始めたきっかけです。料理を教えるにあたっては社会的・歴史的背景の裏付けが必要だと考え、北海道から沖縄までの日本各地や中国・韓国、麺の研究ではイタリアまで、とにかく自分の足で取材して回りました。そんなことを何年も続けているうちに、気づいたら唯一の「伝承料理研究家」になっていたというわけです。
編集部
国内外さまざまな食のルーツを研究されてきましたが、奥村さんご自身の故郷である和歌山県の味覚についてはいかがですか?
奥村
和歌山県の南部といえば、なんといってもウツボですね。僕は5歳のときから自分で獲りに行っていました。獲ったウツボを背開きにして日干ししたのを砂糖醤油で漬け焼きにするのがたまらなく旨くてね。肛門から下は小骨が多いので、細く切って、油で揚げてポリポリやってた。で、冬になるとすき焼きも楽しめる。最近ではウツボのしゃぶしゃぶなんかも、町おこしに活用されているようです。またイガミ(ブダイ)もよく釣って、これも干物にして焼いてお茶をかけて食べていた。この魚はね、ウロコがおいしいんですよ。僕が子どもの頃は白米なんか滅多に食べられなくて、朝は茶がゆ、昼はサツマイモ、夜は麦飯がふつうだった。それでも新鮮な魚や山菜には困らなかったので、食卓は豊かでした。
編集部
煮炊きだけでなく、食糧調達も幼少時からこなされていたのですね。
奥村
食糧の調達は一家総出でやるのが当たり前でした。僕ら子どもたちは春はワラビを採りに山へ、夏は鮎を釣りに川へ、うなぎも獲ったりしてね。うちは麦やサツマイモも作っていたので、畑仕事も子どもの頃からやっていました。伝承料理の研究においては、このときの実体験が非常に役立っていますね。
編集部
その土地の産物を地域独自の調理方法で食す郷土料理は、いわば伝承料理の基本。どのように伝えていくのが重要だと思われますか?
奥村
自分が生まれ育った土地の自然の恵みを、その食文化とともに取り入れること。それは身体だけでなく、心を養い、人格をつくる大切な過程です。それがあるから郷土愛も生まれる。ただコンビニやスーパー、ネットで全国の産物が容易に手に入る現代においては、その絆が希薄になっているのも事実です。親も子どもも仕事や勉強で忙しく、食べごとにさほど関心がなかったりもする。だから、せめて学校給食では地産地消を基本に、郷土料理や家庭料理のよさを教えていく必要があると考えています。その土地の食文化を後世に伝えていくには、子どもたちに食べてもらうのがいちばんだからです。要するに町おこしならぬ、子どもおこしです。
編集部
奥村さんは福島県郡山市を中心に、ヨークベニマルのお惣菜を開発されています。そこでも郷土の味にはこだわっていらっしゃるんですか。
奥村
はい。49年前から開発に携わっていますが、実をいうと当初は関西風の薄い味付けにしたせいで、地元の方には見向きもされなかった。見た目からして東北の食文化には合わなかったんですね。そこで地元の醤油と砂糖で甘辛く調理し、濃い色合いで仕上げたら、飛ぶように売れて……。郷土の食べ物には郷土の色がある、というのをそのときに学びました。同じようなことは僕のやっている料理教室でもあって、たとえばテーマが「ブリの照り焼き」だと若いお母さんは来ない。それを「ブリの照り焼きナポリ風」にすると、すぐ満員になるんです。ここでは若い人の味覚に合わせて鶏の照焼などはオレンジソースを使ったりもする。このように、どんな伝統料理も時代と場所によって柔軟に変化させる必要があるんですね。古典そのままではなく、つねに新しい息吹を料理に吹き込んでいく。それこそが、生きた伝承料理の姿なんです。

伝承料理研究家
奥村彪生(おくむら あやお)さん

1937年和歌山県生まれ。近畿大学理工学部中退後、土井勝料理学校に入学。職員として27年間勤務した後、独立して伝承料理の研究に邁進。2009年美作大学大学院にて麺の研究で学術博士号取得。(株)ライフフーズ(スーパー・ヨークベニマルの惣菜会社)顧問。料理スタジオ「道楽亭」運営。「日本めん食文化の一三〇〇年」で第一回辻静雄食文化賞受賞。他著書多数。

第四回 近畿 近畿の郷土料理を作ってみよう! ~三菱調理家電による再現レシピ~第四回 近畿 近畿の郷土料理を作ってみよう! ~三菱調理家電による再現レシピ~