和食シリーズ企画第3弾

これからの和食を考える。

ユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化。 未来へつなぐために、今できること。ユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化。 未来へつなぐために、今できること。

第2回 みそ
もっと奥深い、
みその楽しみ方

佐野みそ 亀戸本店
三代目当主
佐野 正明さん

お椀一杯に、地域の伝統や、味、香り、季節など、
さまざまな要素が詰まったみそ汁は、知れば知るほど奥深いもの。
みそ汁、そしてみそをもっと楽しんで頂くために、
長年全国の蔵のみそを扱ってきた「佐野みそ」の三代目当主、佐野正明さんに、
おいしいみそのお話を伺いました。

地域自慢の生きたみそを味わう、守る

編集部
たくさんのみそですね!東北から九州までいろいろありますが、地域によって味はどのように違いますか?
佐野さん
(以下 敬称略)
うちの店では、オリジナルのみその他に、全国からみそを集め、70種類ほど扱っています。みそ蔵から仕入れる蔵出しみそは、大きく分けて東と西で味が全く違います。東日本は味も色も濃く、辛口な赤みそが好まれ、西日本はどちらかというと甘くてあっさりした白みそが好まれます。その東と西の境界にあるのが信州です。ここは気候や風土も東西の中間となる平均的な環境ですので、味もバランスのよいものになっています。万人に好まれる味ですね。どれにも当てはまらないのが中京でして、真っ黒でクセのある濃い味が好まれています。
編集部
地域によってみその作り方も異なりますか?
佐野
東の赤みそは大豆に米麹を加えて作りますが、西の白みそは、大豆にたっぷりの米麹を使います。四国や九州では、麦麹を使った麦みそが主流です。原料に対する麹の割合を麹歩合というのですが、麹歩合が高いほどデンプンの分解によって糖が増し、甘くまろやかな味になります。一方、中京の八丁みそは、大豆のみを主原料に長期熟成させることであの濃くてクセのある味を作り出します。熟成期間が長いとアミノ酸が増し、濃い味になるんです。
編集部
いま全国のみそ蔵はどれくらいあるものですか?
佐野
900蔵ほど。昔は1600蔵ほどありましたが、この20年でほぼ半分になりました。私は全国の中小のみそ蔵と取引していますが、それは伝統的な味をちゃんと残していきたいという想いもあるからです。
編集部
地方のみそ蔵ならではの伝統的手法にはどんなものがありますか?
佐野
各地方のみそ蔵では“蔵ぐせ”といって、自分たちの蔵に棲み着いている酵母菌を大事にしています。みそを仕込む際には、蔵ぐせの菌を混ぜたみそ玉を入れて独特の個性を作り出します。またみそは自然の力に頼る“生き物”ですから、蔵にはいろいろな物語もあります。全麹という大豆原料まですべて麹にする、伝統的手法でみそ作りをする蔵を訪れた時のこと。「今夜が峠だ」と言うので何かと思えば、大豆が発酵し過ぎると納豆になってしまう、そうならずに麹に仕上がるタイミングを待っているというんですね。あえて伝統的手法で個性を引き出そうと努力している中小のみそ蔵は、それこそ命がけでみそを作っているんです。

家庭でのおいしいみその使いこなし方

編集部
おいしいみその条件は何ですか? みそを選ぶ時に気をつけることがあれば教えてください。
佐野
いいみその見分け方は、いい原料を使っているか、しっかり熟成させているか?特にゆっくり寝かせたみそは、発酵によるうまみが増します。一般の方が見分けるコツとしては、いいみそは、色を見ると“冴えている”感じがします。少しくすんだ色のものは、発酵が進んでいないため、大豆の油分が残っているような状態であることも多いです。
編集部
家庭でみそ汁を作るときに、上手なみその使い方などありますか?
佐野
季節の具材に合わせてみそをブレンドする「合わせみそ」を使いこなせばもっとおいしくなりますよ。例えばこれからは根菜類がおいしい季節ですが、おいしいカブが手に入ったら、カブの甘みを引き出すように、いつものみそに白みそを加えてみるとか。あさりのみそ汁にしたい時は、ちょっと重たい赤みそをブレンドするといいですね。クセのある具材には熟成みそ、黒い豆みそなども合います。合わせ方はまずベースとなるみそに1:1で合わせてみて、あとはお好みで調整してみましょう。
編集部
料理に使う場合のみその効果的な使い方などありますか?
佐野
みそは臭みをとってまろやかにする効果がありますから、魚料理にもよく使われます。サバの焼き煮、白身魚の西京焼きなど。またみそ床といって塩麹のように肉や魚を漬けてから調理するとおいしく仕上がります。

みそに期待すること、感性のみそ汁とは?

編集部
佐野さんのお店では、みそ汁カフェなども新たに始めていらっしゃいますが、みそ汁、みそ料理の新しい楽しみ方についてアドバイスなどありますか?
佐野
みそ汁というのは、だし、みそ、具が調和して成り立つ三位一体のもの。この三要素以外に、器や盛りつけ、吸い口などにもこだわれば、五感で楽しめる面白さがあります。具材も一種類だけじゃなく、たくさん入れたっていいんです。これからの季節なら冬の根菜を、ゴロゴロ切って入れてもいいですね。みそ汁を主食にするなら肉や魚を入れてもおいしい。吸い口には香りのするものを少々。コショウやハーブなど、ちょっと最後に散らすだけで印象は変わります。カフェでは、そんな具だくさんのみそ汁を、お好みのみそブレンドで提供しています。またみそ料理の新しい楽しみ方としては、みそを使ったスイーツも人気になっています。フレンチトーストにみそを加えたり、フルーツに甘口の白みそソースをかけたり。
編集部
どれもおいしそうですね!とくにみそ汁カフェのみそ汁は、盛りつけの色彩もきれいで、もっと遊び心があっていいんだと、みそ汁に対する考え方が変わりました。
佐野
ありがとうございます。もっとみそ汁を文化として、若い人からお年寄りまでたくさんの人に楽しんで欲しいと思ってこのカフェを始めました。いまコーヒーはサードウェーブ系などと呼ばれる豆や淹れ方にこだわったカフェも登場し、文化として発展してきていますよね。みそ汁だって原料やスタイルにこだわれば、もっといろんな楽しみ方もできると思うのです。
編集部
なるほど、みそ汁の新発想ですね。
これからの和食に必要なのは何でしょうか?
佐野
感性が大事ですね。既成概念をなくして取組むことで、日本の伝統食を、時代に合った新しい文化に発展させることができるのではないかと思っています。
編集部
最後に、私たちにとってみそ汁の一番の魅力は何だと思われますか?
佐野
そうですね、毎朝の一杯のみそ汁は、五臓六腑に染み渡る心地よさがあります。あの一杯があるからこそ身体が目覚める、朝のスイッチだと思うのです。暮らしの中で受け継がれてきたみそ汁習慣を、これからも大事にして頂けたら嬉しいですね。

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2016.12.01