和食シリーズ企画第3弾
第7回 干ししいたけ
干ししいたけ
美しく、深い味わい
大分県椎茸農業協同組合
宿利角丸さん
難波博樹さん
長く保存できて、そのものがおいしく、だしもうま味たっぷり。
干ししいたけは、まさに「和食」食材の見本のよう。国内生産量の約4割を占める大分県は全国シェアNo.1。
今回は大分県椎茸農業組合の宿利角丸さんと難波博樹さんにその種類や上手な使い方、
そして世界に広がる干ししいたけの可能性まで伺ってきました。
「栽培方法」と「かさの開き方」でちがう、しいたけの種類
- 編集部
- 消費者は一口に「ほししいたけ」と言いますが、ふだんは「干」の表記をよく見かけます。こちらにある業務用のパッケージは「乾」が多いですね。「干」と「乾」、どう使い分けているのでしょう。
- 宿利さん
(以下 敬称略) - 表記からですか(笑)。農林水産省で「乾しいたけ」という表記を採用していることもあり、業界では「乾しいたけ」という表記が多いですね。店頭やメディアでは、「干」と表記されていることが多いかもしれません。
- 編集部
- 種類としては、どんなものがあるのでしょうか。
- 宿利
- 日本農林規格――JAS規格では「栽培方法」と「かさの開き方」に基準がもうけられています。栽培方法では「原木栽培」と「菌床栽培」の2種類、かさの開き方で「冬菇(どんこ)」と「香信(こうしん)」の2種類にわけられています。
- 編集部
- 干ししいたけでは「原木栽培」と書いてあるパッケージをよく目にします。
- 難波さん(以下 敬称略)
- 「菌床栽培」は生しいたけのように年中収穫したいものに向いた栽培法です。国産の干ししいたけは「原木栽培」がほとんどですね。一般に原木栽培のほうが味や香りが良いと言われています。原木栽培は、クヌギやナラなどの広葉樹から秋頃に原木を切り出すことから始まります。年明けの1~3月頃、原木に電気ドリルで小さな穴を開け、しいたけの菌糸の入った種駒を植えつける「駒打ち」を行います。その原木を風通しのいい直射日光の当たらない場所で、1年半ほど休ませる。いわゆる「伏せ込み」を行います。
- 編集部
- 1年半!「伏せ込み」にはそんなに時間がかかるのですか。
- 難波
- 菌糸を原木全体にまんべんなく行き渡らせるために、それくらいの期間が必要なのです。その後、「ほだ場(ば)」という、しいたけの発生に適した環境に移します。「駒打ち」から1年半後の翌年の秋に最初のしいたけが採れ、それから毎年春と秋に採取できるようになります。ひとつの原木からだいたい3~4年間、しいたけが採れますね。
- 編集部
- 「冬菇」と「香信」は具体的に何が違うのでしょうか。
- 宿利
- JAS規格では「かさが7分開きにならないうち」に採取したものを「冬菇」、それ以上にかさが開いたものを「香信」と定めています。採取のタイミングが数時間違うだけで、かさはみるみるうちに開いてしまうので、収穫のシーズンになると、農家さんはいつも天気を気にかけています。
- 難波
- その中間の開き方の干ししいたけも「香菇(こうこ)」と呼んで、業界では規格化しています。JAS規格には規定されていませんが、業界では一般的に使われる基準ですね。「冬菇」よりもかさは大きく、「香信」よりも巻きが強く肉厚で、大ぶりで食べごたえのあるしいたけです。
実は規格による味の違いはありません
- 編集部
- 一般には「冬菇」が高級品として知られています。やはり高いものは、味もおいしいように思えますが、実際のところはいかがでしょうか。
- 宿利
- 「冬菇」「香信」「香菇」は型の違いで、実のところ味が違うということはありません。あくまで3種類の違いは「かさの開き方」ですから、同じ環境・栽培方法で育っていれば、基本的に風味自体は同等だと考えていただいていいでしょう。
- 編集部
- てっきり味も違うのかと思っていました。「冬菇」は高級でおいしく、それ以外は手ごろな価格なりの味なのではないかと…。
- 宿利
- よくある話ですね。ただ、肉厚な「冬菇」のグッと弾力ある食感は、肉にも負けない力強さがあります。食感も含めると、たしかに「冬菇」はいい味に感じられるかもしれませんが、かさの薄い「香信」は、もどし時間が短くてすむという利点もある。味が違うのではなく、使う場面や適した料理が違うと捉えていただけるといいと思います。
冷蔵庫でもどすと、うま味が増える!?
- 編集部
- もどし時間と言えば、よくぬるま湯だと早く戻るとか、砂糖を入れるともどし時間が短くてすむという話を耳にします。
- 宿利
- 「おいしさ」という意味では、昔から言われているように一昼夜ほど時間をかけて戻すのが一番いいですね。時間の目安は12~24時間。そして、干ししいたけの味が一番引き出されるのは、冷水に干ししいたけを入れて、冷蔵庫でもどす方法ですね。
- 編集部
- わざわざ冷蔵庫に入れるんですか?
- 宿利
- そこがポイントなんです。水もどしをすると、「リボ核酸」という成分に酵素が作用して、うま味成分の「グアニル酸」に変わります。でも厄介なことに、干ししいたけはリボ核酸からグアニル酸を作る酵素と一緒にグアニル酸を分解してしまう酵素も含んでいるのです。ぬるま湯や常温の水でもどすと、グアニル酸を分解する酵素の方が優位に働いて、せっかく作られたうま味成分が破壊されてしまいます。さらに、うま味成分のもとである「リボ核酸」は低温の水に浸けることで干ししいたけの中で増加することが報告されています。これが、冷蔵庫でじっくりもどすとうま味を上手に引き出せる理由なんです。
- 編集部
- 今後は、干ししいたけをどのように広めていく予定でしょうか?
- 難波
- いま海外展開にも力を入れていて、現在、東南アジアやアメリカなど13の国や地域に輸出しています。干ししいたけは「和」を象徴する食材のひとつでもありますし、中華街のある国での人気も高いですね。大分産の干ししいたけの品質も評価されて、最近では新たな国からの引き合いが増えてきました。レシピも世界的に展開され始めていて、干ししいたけは今後われわれには思いもよらぬ国で想像もしなかった料理へと使われていくようになるのかもしれません。
2017.05.09