和食シリーズ企画第3弾
第8回 豆腐
大豆、水、にがり。
これだけだから、
これほどの味になる。
株式会社三和豆水庵
小沢秀則さん
田宮仁さん
平山康紀さん
田宮仁さん
平山康紀さん
健康的な和食の食材として、いまや「豆腐」は世界中で知られています。
日本の食卓の風景に欠かせない食材の代表格でもある豆腐。
さまざまな豆腐の製法から、その歴史からちょっとツウな楽しみ方まで、
「男前豆腐」「波乗りジョニー」の株式会社三和豆水庵さんに伺いました。
素材そのものが、豆腐の味を左右する
- 編集部
- 豆腐といえば、和食を象徴する食材です。冷奴やみそ汁はもちろん、豆腐が欠かせない料理を数えたらきりがありません。
- 小沢さん
(以下 敬称略) - 水、大豆、凝固剤という、この上なくシンプルな素材から作られていますから、合わない料理を探すほうが難しいと思います(笑)。原料の90%が水で、あとは大豆とにがりに代表される凝固剤ですから。ただ、シンプルなだけに素材が味を大きく左右します。
- 編集部
- 昔から京都に豆腐の名店が多いのは、名水の多い土地柄だったからという話も聞きます。
- 平山さん
(以下 敬称略) - そうですね。そもそも奈良で盛んだった豆腐作りが京都に移っていったのには京都の軟水が豆腐作りに向いていたからという話もあります。もっとも現在では衛生面の規制などもあり、弊社も含めてほとんどの豆腐メーカーでは、自社でそれぞれの豆腐作りに最適化した水を使っていると思います。現代の豆腐でもっとも味を左右する素材は大豆でしょう。
- 編集部
- われわれが店頭で手にする豆腐にはどんな大豆が使われているんでしょうか。
- 田宮さん
(以下 敬称略) - 一般的には、国産のほか、アメリカ、カナダ、中国からの輸入大豆が多いですね。当社では自社ブランド品には国産の大豆を使っています。例えば現在、弊社の「男前豆腐」や「波乗りジョニー」「豆神」は北海道産のユキホマレという大粒で甘味とコクの強い品種を使っています。
- 編集部
- 凝固剤も味には影響するんでしょうか。
- 小沢
- 例えば「波乗りジョニー」は沖縄県糸満沖の海洋深層水からにがりを抽出しています。精製塩と天然塩の味が違うように、天然のにがりは豆腐の味に深みを与えてくれます。水、大豆、凝固剤、いずれも豆腐の味を決定する重要な要素です。素材がシンプルな分、ごまかしがききません。逆に言うとこれだけシンプルな素材で作られる食品だからこそ、いい素材で上手に作ると驚くほどおいしくなるわけです。
- 編集部
- しかも日本人には長く親しまれてきた味わいですよね。
- 平山
- 江戸時代の時点で「豆腐百珍」という料理書が記されるほど用途が広かった食材ですからね。「百珍」というくらいですから、和の食材のなかでも確かに飛び抜けた汎用性があると思います。
- 編集部
- 日本の歴史に、豆腐が登場するのはいつ頃になるのでしょうか。
- 田宮
- 古くは遣唐使の頃に伝えられたという説もありますが、記録としては1183年奈良の春日大社の神職の日記に登場する「唐符」が最初の記録と言われています。僧侶の間に普及し、やがて精進料理の普及に伴い、貴族や武家社会にも伝わっていったようです。
- 編集部
- 庶民の口に入るようになったのはいつ頃ですか。
- 平山
- 江戸時代の中期頃ですね。江戸時代でも初めの頃はぜいたく品として、製造すらも禁じられた時期もあると言われています。庶民の手に届くようになったのは18世紀のこと。1700年代前半に江戸市中に今で言う居酒屋のような業態のお店ができ、店内で酒を飲む客に豆腐田楽を提供するというスタイルが流行しました。先に名前の挙がった「豆腐百珍」も1782年の刊行ですから、豆腐が庶民のものになったのは18世紀頃と言えそうです。
実は充填豆腐はおいしかった!?
- 編集部
- 現代では絹ごし豆腐や木綿豆腐といった、昔ながらの製法のものだけでなく、充填豆腐のような新しい製法の豆腐、それに油揚げや厚揚げなどさまざまな種類の豆腐製品が作られています。それぞれどんな特徴があるのでしょうか。
- 小沢
- 絹ごし豆腐、木綿豆腐という昔ながらの豆腐も含めて、途中までの製法はだいたい同じなんです。まず豆を水に浸してすりつぶしたものを煮る。煮上げたら豆乳とおからをわけて、豆乳ににがりを加えてかためたものが絹ごし豆腐。それをていねいに崩して型に入れ、重しを乗せて水分を抜いたものが木綿豆腐です。
- 編集部
- 「木綿」の名前は水分を抜くとき、型に木綿の布を敷いたことが由来だと聞いたことがあるのですが。
- 田宮
- そのとおりです。禅宗の食事として肉食の代わりを担う代用食として、あのしっかりした食感が生まれたと言われています。ただ面白いことに、「木綿」と対比するような名前の「絹」ごし豆腐は絹の布を使うわけではなく、食感が柔らかく、口当たりが絹のようになめらかだからという説が有力です。そのほか寄せ豆腐は木綿のように圧力をかけるわけではなく、ざるなどで自然に水分を抜きます。細かい部分でいろいろ違いがあるんです。弊社の男前豆腐も寄せ豆腐ですが、水が切れるような特殊な二重底のパッケージを開発・採用して濃厚でなめらかな口当たりを実現しています。
- 編集部
- その他の豆腐についてはいかがですか。特に充填豆腐は、ちょっと安い豆腐のようなイメージがあるのですが。
- 平山
- アハハハハ。3個パックでまとめられることが多い豆腐ですが、実は充填豆腐はおいしい豆腐なんです。
- 編集部
- あっ。そうなんですか。
- 小沢
- もちろん同じ材料を使った場合の比較にはなりますが、木綿や絹といった豆腐は最終的に水を張った容器に豆腐を浮かべることになりますよね。どうしても大豆のうまみが水に出やすくなる。対して充填豆腐は容器の中が100%豆腐ですからうまみを逃さず保存できる。我々メーカーにとって大きいのは、それまで賞味期限2~3日だったのが、充填豆腐の登場で10~20日くらいにまで賞味期限が伸びたことです。
- 平山
- 充填豆腐は日持ちするから誤解されやすいんです。昔は「添加物を入れてるから日持ちするんじゃないか」とかあらぬ疑いをかけられたほど。日持ちする理由は容器のなかで密閉してから加熱をするため。ざっくり言うと、加熱しながらそのまま殺菌するようなイメージですね。パッキングしてからさらに加熱することで日持ちを長くしています。
- 田宮
- その他の豆腐でいうと、実は鍋に使う焼き豆腐もかなり手がかかるんです。木綿豆腐からさらに水分を抜くという工程が入りますし。その豆腐を手作業で炙らなければならない。
- 編集部
- えっ。炙る工程ってオートメーションではないんですか?
- 平山
- 手作業なんです。焼き豆腐用のライン、特に炙る工程をオートメーション化している豆腐メーカーってちょっと聞いたことがありませんね。というのも、焼き豆腐は季節商品なんです。
- 田宮
- 夏に売れる湯葉なども季節商品といえますが、焼き豆腐はとりわけ極端な売れ方をします。年間通して同じように売れるならオートメーション化できるかもしれませんが……。ですから年末は営業から経理まで総出で工場入りして、豆腐を焼いています(笑)。
- 小沢
- 焼き豆腐は本当に特殊で、一番売れるのは年末という特殊な豆腐なんです。正月のすき焼き需要なんでしょうね。
- 編集部
- 日本の伝統的な食習慣は、まだまだ目に見える形で残っているんですね。では、焼き豆腐と言えば鍋料理、というふうにあらためてそれぞれの豆腐に適した調理法の基本を教えてください。
- 平山
- 絹ごし豆腐はつるんとしたなめらかな口当たりが特徴なので、食感も含めた豆腐そのものの味わいを楽しむ冷奴や湯豆腐がいいですね。木綿は肉のような歯ごたえとしっかりした食感、それに味しみの良さが特徴なので炒めてもいいし、含め煮にしてももちろんいいですね。最近の糖質制限ブームのなかで主食のごはん代わりに召し上がる方も増えていると聞いています。
- 田宮
- 木綿は扱いやすいので、洋風のメニューにも対応できますよね。ミートソースをかけたり、サラダの具としてトッピングしたり、モッツァレラチーズの代わりにトマトのスライスと合わせてイタリアのカプレーゼ風にしたり。
- 編集部
- ちなみに、みなさんそれぞれがお好きな豆腐料理は何になるんでしょう。
- 小沢
- 私はやわらかめの寄せ豆腐――おぼろ豆腐にパラリと塩を振っていただくのが好きですねえ。
- 田宮
- 私は断然「男前豆腐」です。特に3~9月限定の枝豆バージョンを岩塩で食べたいですね。
- 平山
- うちは子どもが本当に豆腐が好きで、たまにスーパーで他のメーカーの豆腐買って帰るとバレるんですよ。「いつものと違う!」って。
- 編集部
- 平山さんご自身のお好みで言うと?
- 平山
- ……。
- 小沢・田宮
- この人、豆腐食べないんですよ(爆笑)。
- 平山
- いいんです。普及のためには、そういう人材も必要なんです!(笑)
2017.06.09