和食シリーズ企画第3弾
第10回 なす
なすだって
みんな違って
みんないい。
焼きなす、揚げなす、漬け物、煮物はもちろん、中には刺身になるものも。
なすにも、いろいろななすがあり、さまざまなおいしさがあるのです。
なすのおいしさ大実験!
全国津々浦々の農産物に精通する、農産物流通コンサルタントの山本謙治さん――やまけんさんは、全国のなすの名産地を訪れ、その品種や味わいがいかに多種多様なものかをセミナーなどで伝え続けています。今回は「これからの和食を考える」特別編としてなすのおいしさ食べくらべ、大実験です!
千両なす
加熱するなら何でもOK。
長岡巾着なす
絹かわなす
泉州水なす
肥後赤なす
この5種類を「生(1cmの半月切り)」「揚(乱切りを素揚げに)」「焼(焼いて皮をむき、一口大に)」「蒸(皮をむいて蒸し、冷まして一口大にしたものを辛子じょうゆで)」という4種類の調理法、つまり20通りの味で試してみようというのが今回の企画です。
蒸したなすの味わいは?
最初に一番味がはっきりわかる「蒸し」で5種類を食べ比べ。味覚のトリガーになる塩もつけずに、そのままの味わいを体験してみることに。やまけんさん曰く「冷ました蒸(ふ)かしなすは、なすの渋味やえぐ味なども感じやすくなるんです」とのこと。まず千両なすは「いつもの味」「よく味わうと、苦味やえぐ味を感じる」との感想が。蒸したものに調味料をつけずに食べることで、ふだんよりていねいに味わうことができたよう。
一方、巾着なすは苦味やえぐみというより「むしろコクを感じる」「味、香りとも甘さだけじゃない複雑味がある」という声も。絹かわなすは「果肉がやわらかく、みずみずしい。意外となすの味が濃い」。水なすは「シャクシャクした食感。確かに加熱よりも生食や漬けもののほうがイメージが湧く」。最後の肥後赤なすは、やわらかいけどキメの粗い印象で一致。「そういうのを膨軟(ぼうなん)な肉質って言うんですよ。なす以外では使わない言葉だから覚えても役には立ちませんけど。アッハッハ」とやまけんさん。
調理法で味はどう変わる?
さて、これが調理法を変えていくと味はどう変わるのでしょう。まずは焼きなすから、やまけんさんの解説つきで。
「まず千両なすは単純に物性がやわらかく、みずみずしくなりますよね。味は大きくは変わらない。あ、そこでもうひとつ食べてほしいなすがあるんですよ」
えっ。もうひとつ増えるんですか?
「千両なすなんですが、ハウス栽培に向く千両一号という品種を普通より高めの気温設定で栽培したものです。普通に出回っている規格よりも少し長くて太い。そして食べてみてください。甘いでしょう?千両がある意味万能だということがよくわかります。長岡巾着や絹かわは焼いても全体としてはあまりいい印象にならないでしょう?水なすもどう調理しても保水力が高い。唯一、肥後赤なす――長いなすは味と香りが数段伸びて、舌触りもよくなる。これは、しょうゆをかけたくなりますよね!」
全員がうんうんとうなずき、一部の部員がしょうゆをかけて食べ始めるほど。テイスティングなのに「おいしい!」という声が聞こえてきます。続けざまに揚げなすに突入します。よく「なすと油は相性がいい」と言われますが、どうでしょうか。
「揚げ物となると油のこってり感が先に立つので、千両なすの特徴はそれほど前には出てこないですね。巾着なすは芋っぽい?確かに、そういうフレーバーを感じるかもしれません。そして絹かわなす!これエレガントでしょう。特に菜種油との相性が最高です。泉州水ナスは水分が残るから立体感のある味わいになりますよね。肥後赤なすは皮が硬く残りますが、これはこれで面白いテクスチャーですよね」
最後に編集部も含めて全員で生のなすを食べてみました。ところが定番の千両なすの時点で「苦い!」「えぐい!」とリタイヤ続出。「ほのかな甘味もある」と言っていた部員も「えぐ味がどんどん強くなってくる……」と完食後に給水するはめに。
「オールラウンドなはずの千両なすにも、向き不向きがある。ふだん気づきにくいかもしれませんが、ひとつひとつ味の違いがあるんです。店頭を見ると千両なす以外に肥後赤なすを置くようにしているスーパーもあるようです。絹かわや水なすは一般のスーパーにはなかなか出回りませんが、地域のJAに問い合わせれば手に入ります」
消費者が求めれば、売り手は必ず変わるもの。おいしい素材とおいしい調理法を知ることは、食卓を豊かにするだけでなく、この世の中においしいものを増やすことにもつながっているのです。
2017.08.01