和食シリーズ企画第3弾
第11回 きゅうり
きゅうりには
「涼味」という
味わいがあるんです
夢みなみ農業共同組合
すかがわ岩瀬地区支援センター 大賀学さん
高柳幸知さん
すかがわ岩瀬地区支援センター 大賀学さん
高柳幸知さん
シャキッとした歯ごたえにみずみずしい食感。
生産者だからこそ知っている、
きゅうりのおいしさのすべてを聞きました。
新鮮なきゅうりは「スジ」が深い
- 編集部
- 漬け物に酢の物、かっぱ巻き……。きゅうりは、さまざまな和食で使われていますが、「和食」にとってのきゅうりの位置づけはどのようなものなのでしょう。
- 大賀さん
(以下、敬称略) - 色味や食感なども含めて「涼味」を感じさせる名脇役、「影の仕事人」といったところでしょうか。
- 高柳さん
(以下、敬称略) - 特に難しい調理をしなくても、切れば一品になる手軽さも大きいと思います。切ったものにみそをつけるだけでも料理になりますから、登場する機会も多くなります。
- 編集部
- シンプルな調理法が多い野菜だけに、素材自体の味わいが大切だと思いますが、いいきゅうりの見分け方を教えてください。
- 大賀
- 新鮮でおいしいきゅうりは中に水分が詰まっています。新鮮なきゅうりの見分け方のコツとしては縦にスジが深くハッキリ入っているもの。時間が経ったきゅうりは内部の水分が蒸散してしまい、スジがボケてしまったり、表面のざらつきが失われてしまいます。
- 高柳
- 以前、小学生にきゅうりの食べ比べをしてもらったことがあるんです。新鮮で品種違いのものをそろえたんですが、ひとつだけ収穫してから2~3日経ったものを混ぜておいたら、そのきゅうりの評判は悪かったですね(笑)。面白いことに「おいしいきゅうり」の好みはわかれるんですが、「おいしくない」のはみんな一致するんです。新鮮なきゅうりのあのパリッとした食感は誰もがおいしく感じるもののようですね。
- 編集部
- 新鮮かどうかの他に味が変わる要因はあるのでしょうか。
- 高柳
- 肥料も味に大きな影響を与えますね。有機質の肥料の比率が高い農家のきゅうりは素直できれいな味になる。化成肥料が多く使われたきゅうりはえぐみが出やすいんです。施肥のスタイルは基本的には生産者によるので、お気に入りの農家を見つけるといいですね。ただ須賀川のきゅうり全般に、えぐみが少ないという評価がされています。
- 大賀
- 新しいうちに食べられないものは、漬け物にするなど保存・加工を視野に入れてほしいですね。ぬか漬けは面倒というイメージがあるかもしれませんが、家にぬか床がなくても最近ではすぐ漬けられるようパッケージになっているものもあります。もっとかんたんに、きゅうりを叩いて割ったものを、めんつゆと鷹の爪に漬けて半日感置いておけば立派な即製漬けになりますね。
- 高柳
- 私は切って叩いたきゅうりに、梅肉に顆粒のかつおだしを加えたものが好きですね。
好きな居酒屋のメニューだったんです(笑)。
ここのJAの人間はみんなひとつやふたつ、好きなきゅうり料理はあると思います。なかには、鳥の竜田揚げに、水気を切ったきゅうりのすりおろしをかける人もいます。
- 編集部
- そういえば須賀川のJAの直売所は遠方からも買い出しに来る人がいるほど人気だと伺いました。
- 大賀
- 全国でも指折りの直売所だと思います。東日本では売上No.1になったこともありますし、本当に、あちらこちらから買い物客がお見えになりますね。旬の時期だと曲がりきゅうりなどが格安で販売されています。
- 編集部
- その「曲がりきゅうり」、味に違いはあるんでしょうか。
- 高柳
- 現在の品種であればきゅうりはまっすぐ育つものなんです。曲がってしまうのは、施肥や日照、水分不足など何らかストレスがかかった証拠。敏感な人がまっすぐなものと食べ比べれば、わかるかもしれません。じゃあ、ちょっと畑に行ってみましょうか。
そう言って高柳さんが連れて行ってくれた畑は、2年前に脱サラした大賀功さんという生産者農家のところでした。
ちなみに先ほどお話をうかがった支援センターの大賀学さんのお父様だそう。畑に伺ったところ、「今日のはうまいと思うよ。ちょっと食べてみるかい?」といきなりの収穫体験に。収穫したてのきゅうりを何もつけずにパリッと食べると、爽快な食感と、みずみずしく透明感があるまさに「涼味」が口のなかに広がります。
年間4000トンのきゅうりをさばく選果場
- 大賀(父)さん
- うまいでしょう!なにしろ趣味で作ってるからね(笑)。このところ日照ってたけど、昨日から雨が振ったから、ちょうど水をグッと吸って、水分の多いハリのあるきゅうりになってるんですよ。こういう日は成長も早くて、ちょっと目を離すと半日で10cm近くも大きくなることがある。いい実がなるきゅうりって葉がやわやわとしていて、みずみずしくて薄いんです。まだ始めて2年だからわからないことも多いけど、その分いろいろ試したりと手がかけられるのは僕の強みかな。
いただいた大賀(父)さんのきゅうりはいずれも大きく、まっすぐなもの。きゅうりの等級は長さ、太さ、曲がり、キズ、色などで7等級にわけられています。曲がりが1cm未満で長さ20~23cmがAS――俗に言う「A品」です。
収穫されたきゅうりはコンテナにつめられ、夢みなみ農協の選果場「きゅうりん館」へ。
きゅうりん館の荷受け場に運び込まれたきゅうりは1Fの予冷庫に入れられ、エレベーターで2Fの選果場へと上げられます。それが各ベルトコンベアーに流され、ライン上にあるカメラで長さ、太さ、曲がりなどから等級を判断されて振り分けられていきます。
振り分けられたきゅうりは空気で優しく吸われて12本単位で整えられ、一箱に上下2段の48本入れられます。最後に手詰めで2本を追加。一箱50本で出荷されるのです。
- 編集部
- 先ほど大賀さんのお父様が手がけている畑に行ってきましたが、農業に携わってわずか2年とは思えぬとてもおいしいきゅうりをいただきました。
- 大賀
- そうですね。父のように脱サラなどで就農する人もいます。JAとしても施肥などアドバイスできることはありますし、手をかけたものが実るというやりがいも感じられる。
- 高柳
- 課題としては、やはり高齢化ですね。いま主な生産者の世代が60代なんですが、土地はあっても休耕地になってしまうケースもあるんです。幸い、最近では父親が引退する前に子ども世代が継ぐような機運もあって、技術の継承もうまくいっています。
- 大賀
- うちの父がきゅうり農家になってよかったのは、ちゃんときゅうりを好きだったこと。それも、もろキュウやぬか漬けといった昔ながらのきゅうり料理だけでなく、豚キムチ炒めにきゅうりを入れるなど新しいものにも目を向けているから質が良くなっていくんです。いくつになろうとも創意工夫を凝らす生産者もいる。そうした生産者が須賀川のきゅうりの質を上げていくのだと思います。
2017.09.04