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透明なケースの中で植物や生物を育て、自分の世界をつくるテラリウム。
なかでも苔を用いたテラリウムは、デスク周りなど部屋のちょっとしたスペースに緑を飾れ、
簡単なお手入れで長く楽しめる点からも人気を集めています。
今回は苔クリエイターの石河英作さんに、苔テラリウムの魅力や作り方を教えてもらいました。
テラリウムとは、ガラスなど透明で密閉された容器の中で、陸上の生き物を育てる方法です。「陸地」と「場所」を意味するラテン語がその語源。透明な容器が温室のような効果を生み、水分を中に閉じ込めて循環させるので、毎日水やりをしなくても緑を育てられます。
テラリウムが日本で広まり始めたのは1980年代以降。なかでも2020年からの「おうち時間」で一気に注目が高まり、ブームを呼んでいるのが苔テラリウムです。手のひらサイズの緑を部屋に飾れる上、石やオブジェを組み合わせて「自分だけの風景」を作れるのも人気の理由。自然の姿に近い「小さな森」のようなものから、ミニチュアの風景を閉じ込めたメルヘンな世界まで。自分好みの景色を手作りでき、癒しのインテリアとして楽しめるのがその魅力でしょう。
●苔
苔は一定の湿度があれば育ち、初めて緑を育てる人でも失敗の少ない植物ですが、テラリウム用に販売されている苔を使うのが安心です。初心者でも扱いやすく見栄えも良いのはタマゴケ、ヒノキゴケ、ホソバオキナゴケ、コツボゴケなど。背の高いコケをアクセントに使うなど、高さや色合い、形状の違うものをお好みで配置してください。
●容器
ビギナーにおすすめなのは、中に手が入る8~15センチ程度のサイズ。容器の口が狭いものや小瓶は難易度が上がります。大事なのは、フタが付いたものを選ぶこと。密閉できればアクリル素材でも構いませんが、主流のガラス容器のほうがバリエーション豊富で、好みの器を選べる楽しみも。上級者には、水槽を使って水辺の風景を楽しむアクアテラリウムも人気です。
●土・石・砂
容器の底に敷く土台のソイル(土)は、苔用に配合されたものが便利です。砂や石はデザインのキーポイント。基本的に使えない砂や石はありませんが、例えば水を吸うと黒くなる富士砂なら、苔の緑と土の黒とでコントラストが生まれます。
ベーシックな材料と、用いる道具は次の通りです。
〈材料〉
- ガラス容器(フタつき)
- 土(ソイル)・岩・砂
- 苔(お好みで3種類前後)
〈道具〉
- ピンセット、ハサミ、霧吹き
他に薬さじ(スプーン)、水やりスプレー、土をならすブラシもあると便利です。
1.ガラス容器に土を入れ、石を配置する
小ぶりな容器なら、土に傾斜をつけるとボリューム感のある見た目に。石は、土に少しめりこませるように置いて固定させましょう。
配置のコツ
この時点で「苔を植えないエリア」を決めておくと、メリハリの効いたテラリウムに仕上がります。苔は全体に敷き詰めず、余白を意識しましょう。
2.水で土を湿らせて、苔を植え付ける
濡らすことでサラサラした土が締まり、苔を植え付けやすくなります。容器内の土全体が濡れているか確認して、ピンセットで苔を少しずつ植え付けましょう。
苔の植え方
塊になっている苔は、指でほぐしましょう。苔には根がないので、緑の部分を残せばその下は短くカットしてOK。
小さく取り分けたら、ピンセットを苔に添わせるようにしてつかみます。苔の最下部にピンセットの先端を合わせてください。この状態で、上から土の中へまっすぐ差し込みます。ピンセットを持った手の反対側の指で軽く苔を押さえ、ピンセットをそっと引き抜きましょう。
ポイントは、少しずつ植えていくこと。小さく取り分けた苔をていねいに植えて、世界がだんだんと仕上がっていく時間を味わってください。「欲張らない」のが素敵な仕上がりに近づく秘訣です。
初心者向けに用意されたキットには、背の高さが異なる苔が数種類入っているものが多いです。背の高い苔をシンボルツリーとして配置する、アクセントになる苔を2~3カ所に固めて植えるなど、お好みのレイアウトを楽しんでください。
コツボゴケのように低い場所で這うように伸びる苔は、石のそばに置きましょう。時間の経過とともに石の上に苔が生え上がっていく様子を楽しめます。
3.砂で化粧する
写真の砂は、溶岩石が細かく砕かれてできる「富士砂」です。砂でお化粧を施すことで、テラリウムの中に色の変化が生まれます。先に「苔を植えない」と決めたスペースに砂を敷いておき、「一面緑の瓶詰め」状態になるのを避けるのもおすすめの方法です。
4.霧吹きをかけ、フタをする
最後に霧吹きを使って全体を湿らせ、フタで密閉させたら完成です。
小さなフィギュアやオブジェを配置し、メルヘンな世界観を描くテラリウムも人気です。苔とワンポイントのアイテムを配置する程度のサイズなら、初心者でも手軽にチャレンジ可能。デザインのポイントは次の通りです。
●オブジェや石は先に置く
「家」のようにデザインの要になるオブジェをまず配置。アイテム以外にも「ここは道にしよう」と決めた場所には、先に化粧砂を敷いておくのがおすすめです。その後、スキマを埋めるように苔を植え付けましょう。
●ジオラマ的な作品はシンプルに、自然志向なら苔の種類は多めに
シンボルとなるオブジェクトがある場合、苔の種類は絞ってシンプルにするほうが、デザイン的にまとまります。一方、自然に近い森や山のような雰囲気がお好みなら、5~6種類の苔が混ざり合ったテラリウムに。スケールの広がりを生みだせます。
●1日8時間以上は明るい場所へ
苔テラリウムに直射日光はNGです。日光を当てると容器の中が熱くなるためご注意ください。とはいえ、本の文字が読めるくらいの明るさは最低限必要。苔というと暗い場所に生えているイメージを持たれがちですが、テラリウム向きの苔は、こもれび程度の明るさを好むものが多いのです。光合成を十分に行うため、1日のうち8時間以上は明るい場所に置いてあげましょう。それが難しい場合は、植物育成用やインテリア用のLEDライトを当てることをおすすめします。
●1~2週間に一度は霧吹きを
水やりの頻度は容器の形状によっても変わりますが、基本的に1~2週間に一度でOK。霧吹きで表面を濡らし、土が乾いてきたら水差しで水分を与えてください。
お世話が簡単な点もテラリウムの特長ですが、生きているものを「育てる楽しみ」もぜひ味わってほしいところ。2週に1度では水やりを忘れてしまいがちなので、1週間に1度はフタを開けて「元気かな?」と苔の様子をチェックし、霧吹きをかけましょう。数カ月に1回はトリミングも必要です。伸びすぎたところや茶色くなったところをカットし、お手入れするときれいに育ってくれます。
●夏の暑さには要注意
テラリウムを置く部屋の温度はできるだけ30度以下に保ちましょう。旅行などでしばらく家を空ける場合には、野菜を密閉するような透明のパックに入れ、冷蔵庫に入れておくときれいな状態をキープできます。
ビギナーも手軽にチャレンジでき、自分流のアレンジも楽しめるテラリウムの世界。初めて植物を育てる人にもおすすめです。あなたもぜひチャレンジして、お部屋に彩りを添えてみませんか?
2024.08.01
石河英作さん
苔クリエイター/苔テラリウム専門ブランド「道草michikusa」代表
蘭種苗会社で育種・企画営業に携わった後、2013年に苔専門ブランド道草michikusaを立ち上げ、園芸の脇役だった苔を主役に据えた商品の企画販売を開始。YouTubeチャンネルでの動画配信、苔テラリウムの展示イベントなどを通じて、苔の魅力を発信しています。著書に『魅せる苔テラリウムの作り方』『部屋で楽しむ小さな苔の森』『はじめての苔インテリア(苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで)』など。