気候変動や大きな環境変化の原因となっている地球温暖化の防止を目指し、温室効果ガスの排出について、2020年以降の各国の取り組みを決めた国際的なルールです。京都議定書に参加しなかった中国やインドを含め、現在*1、約197の国や地域が締結しています。
この協定により、世界全体として以下のことが決められました。
- ・産業革命前と比較して、地球の平均気温の上昇を2℃より十分低く保ち、1.5℃未満に抑える努力をする
- ・1.5℃未満に抑えるために、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウト、今世紀後半までに世界全体で排出量実質ゼロにする*2
これによりすべての国が削減目標を設定し、そのための対策を行うほか、5年ごとに実施状況のレビューを行うことが義務付けられています。
1.5℃未満に抑える努力目標が2018年に設定された背景には、すでに温暖化が予想以上の速さで進んでいて、たとえば2℃では地球上のサンゴが99%死滅するなど、回復不可能な臨界点を超えることが予想されるからです。
つまり、「1.5℃」のラインで死守することが私たち世代の責任であり、そのための国際的な対応策が「パリ協定」なのです。
*1: 2019年8月現在
*2:
環境省「第2節 パリ協定を踏まえた我が国の気候変動への取組」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r01/html/hj19010202.html
*この記事は2019年8月の情報を元に掲載しています。
2,500人以上の科学者が気候変動に関する研究成果をまとめて発表しているIPCC*1の最新の報告書では、平均気温が2℃上昇した場合の地球について次のように予想しています。
- ・ほとんどの陸地で極端な気温上昇がより頻繁になり、より高温になる
- ・熱波の頻度や期間が増える可能性が非常に高い
- ・極端な降水がより頻繁になり、より強力になる可能性が非常に高い
- ・北極海の海氷面積が縮小し、薄くなり、10年に一度は夏の北極海の氷が消失する
- ・世界の主要河川の洪水が増え、洪水の影響を受ける人口が大幅に増加する一方で、干ばつに影響を受ける人口も増える
- ・数百~数千年にわたり海面水位が数m上昇する
- ・サンゴ礁の99%以上が消失、昆虫の18%、植物の16%、脊椎動物の8%が生息域の半分以上を失う
- など(環境省「おしえて!地球温暖化」より)
では、日本ではどのようになるのでしょうか。
環境省では「2100年未来の天気予報」として平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えることができなかった場合の日本の天候を予測して映像化しています。
それによると、2100年の夏は全国140カ所で気温が40℃を超え、年15,000人が熱中症で死亡、大型の台風が起き、頻度が増すことなどを予測しています。現在でも夏の暑さは厳しさを増していますが、1.5℃未満に抑えることができなかった場合は、人間を含む生態系への破壊的な影響が心配されます。
*1:
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略称。
国連と世界気象機関(WMO)により1988年に設立され気候変動に関する研究成果をまとめて、問題解決に必要な政策を示している。
私たちの暮らしにも大きく影響を及ぼす地球温暖化ですが、パリ協定で設定された1.5℃未満を実現するために、各国はどのような温室効果ガスの削減目標を設定し、対策を進めているのでしょうか。
それぞれの国が独自に目標を定めているため、単純に比較するのは難しいのですが、たとえば世界で最も温室効果ガスの排出量の多い中国は、2030年度に60~65%削減(2005年比 GDP当たり)を目標としました。英国は2030年度に57%の削減(1990年比)、ドイツは2030年に55%の削減(1990年比)、そして日本は2030年度に26%の削減(2013年度比)を定めています。
温室効果ガス削減の進捗状況では、「英国は2016年時点で41%を削減、ドイツが27%削減したのに対し、日本は7%」*1とまだまだ目標には遠く、低い削減量です。
この1.5℃未満を実現するために、IPCCではいくつかのシナリオを提示しています。シナリオによれば、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を2010年に比べて45%前後、2050年までに総量ゼロに減らす必要があるとし、省エネ技術などでエネルギー需要を抑え、2050年までには電力における再生可能エネルギーの割合を70~85%に増やし、石炭火力による発電をゼロにすることを提案しています。
また「同時に森林面積を増やし、資源をできるだけ消費しない食事へ変更すること」*2なども提案されています。そしてシナリオは今後10年程度が地球温暖化抑制に非常に重要な時期となると指摘しています。2030年までの10年間にどれだけCO2排出量を抑えられるか*3が私たちの未来を左右するのです。
*1:
経済産業省資源エネルギー庁「パリ協定」のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み①
https://www.enecho.meti.go.jp/about/
special/johoteikyo/
pariskyotei_sintyoku1.html
*2:
たとえば牛肉1kgを生産するためには、その7倍~11倍の穀物が必要となる 。たとえば、牛肉を食べる替わりに大豆製品を選ぶと10倍ほどの人間を養えると言われる。
農林水産省 その4:お肉の自給率
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/
ohanasi01/01-04.html
*3:
IPCCシナリオでは2030年までに2010年に比べて45%減らす必要があると提言している。
経済産業省 地球温暖化対策と環境ファイナンスの現状について
https://www.meti.go.jp/shingikai/
energy_environment/
kankyo_innovation_finance/pdf/
001_04_00.pdf
パリ協定発効は経済の仕組みにも変化を及ぼしています。特に投資の面では二酸化炭素をたくさん排出する化石燃料関連の事業から資金を引き揚げる傾向(ダイベストメント)が強まっています。
その中には米国ニューヨーク、サンフランシスコ、シアトル、そしてロンドン、パリ、ベルリンといった大都市も含まれます。ニューヨーク市長などは、5大米国石油会社に対して気候変動による被害の訴訟を起こすことを決めたほどです。また、大学、年金基金や政府系ファンド、保険会社でも同様の動きが加速しています。
一方で、環境に配慮したSDGs(持続可能な開発目標)投資やESG(環境・社会・ガバナンス)投資*1が注目を集めており、「国際的なESG投資残高は2016年から3割以上増加している」*2といわれています。特に日本における投資が急激に伸びており、日本は、ヨーロッパ、米国に次ぐESG投資国になりつつあります。
つまり、パリ協定発効後、世界のお金の流れが二酸化炭素の排出を抑制し、より環境に配慮した企業やプロジェクトに活かされるように、経済の仕組みも変わってきたと言えるでしょう。
*1:
環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資。
環境では地球温暖化対策や生物多様性の保護活動、社会では人権への対応や地域貢献活動、企業統治では法令遵守などを重視する投資。
*2:
財務省 ESG投資について
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/
fiscal_system_council/sub-of_kkr/
proceedings/material/
kyousai20201202-3.pdf