2010年8月 vol.02
打ち上げ間近 準天頂衛星「みちびき」とは?
準天頂衛星の軌道。3つの衛星を配置することで、常に天頂に衛星がいる状態にできる。(提供:JAXA)
カーナビって便利ですよね。我が家も最近ようやく活用していますが、知らない場所に出かけるのが楽しくなる。でも都市部では道一本間違えてたり反応が鈍かったり、田舎にいくと川や海の中をずんずん走っていたりとか、時々あれっと思うことがありませんか?
カーナビを可能にしているのが、「衛星測位システム」で、複数の人工衛星が発した電波信号を受信して自分の位置を知ることができるシステムだ。日本が利用している衛星測位システムが米国のGPS(Global Positioning System)。約30機の衛星が運用中で地球の周りをグルグル回っている。もともとは米国国防総省が軍事目的で1970年代から打ち上げた衛星だったが、今や測地や測量、地殻変動の観測、津波警報、粗大ごみの不法投棄監視など、生活の色々な面で活用されている。
この衛星測位システムは米国だけでなく、ロシアのGLONASSが21機運用中(2010年7月末現在)、さらに欧州のGalileo、中国のCOMPASS、インドのIRNSSが運用を目指しており、米国のGPSも近代化を目指して世代交代の途中だ。
「みちびき」と寺田プロジェクトマネージャー(提供:JAXA)
日本は1980年代からカーナビが商品化され、GPSを使ったナビゲーションなどが普及しているにも関わらず、独自の衛星測位システムを持たず、海外の衛星に頼ってきたのが現状だ。「世界の宇宙先進国がこぞって衛星測位システムの開発や計画を進めている『旬の時期』。日本もその仲間に入ろうとしている」と話すのは、JAXA準天頂衛星システムプロジェクトマネージャの寺田弘慈(こうじ)さんだ。9月11日に、準天頂衛星初号機「みちびき」が打ち上げられる予定だ。プレス説明会が8月半ばにJAXAで行われたが、その内容はかなり画期的だった。
まず「準天頂衛星」とは聞きなれない言葉だが、日本付近で常に天頂方向に見える衛星のこと。GPSからの情報を受信して測位を行うには、測位衛星が4機以上見えていないといけないのだが、日本は山間地が多く、都市部には高い建物が密集していて、見える衛星が少なくなる。すると測位できる時間が減ったり測位精度が劣化したりしてしまう。それを補う4機目のGPS衛星として常に天頂に見えていて、利用可能エリアや利用時間を増加するのが、準天頂衛星の大きな役割の一つだ。ただし常に天頂にいるためには3つの衛星が必要になる。今回はその初号機となる。
そして準天頂衛星のもう一つの大きな役割は、測位の精度を上げることだ。GPSからの信号は、地球上空の電離層や、大気中の水蒸気量の影響を受けて誤差が生じてしまう。また、衛星から送信される衛星の位置や時刻情報にも実際には誤差がある。これらの誤差を計算して補正情報を作り、準天頂衛星から送ることでGPSからの情報を補強し、さらに高精度で信頼性の高い測位が可能となるのだ。
準天頂衛星システムが機能すれば、測位可能時間は約90%(GPSのみ)から99.8%(GPS+準天頂衛星)になり、測位精度は1m、cm級と現在の約十分の一以下になることが期待される。そのほかにも準天頂衛星には、原子時計が搭載されていてナノ秒(十億分の一秒)レベルの高い精度で時刻を管理するなど、様々な実験が行われる。これらについては、また改めて。