2014年5月29日
大幅に性能アップ!
「だいち2号」がより広く使われるために必要なこと
5月24日昼、「だいち2号」が種子島宇宙センターから力強く打ちあがった。「だいち2号」は先代の「だいち」が搭載していたレーダーを高性能化した地球観測衛星だ。「昼夜問わず全天候で」観測できるのが強み。さらに、「だいち2号」は細かいところまで見られる能力「分解能」を1~3メートル(「だいち」は10メートル)にアップ。観測後も最短2時間でデータ提供が可能になった。災害時は発災後72時間を過ぎると生存率が低下すると言われているから、「命を守る」衛星としての活躍が期待される。
打ち上げ前に行われた記者説明会では「だいち2号」がいかに高性能化され、様々な分野に役立てられるかについて、JAXA関係者らが熱く語った。主なターゲットは3つ。①災害対策、②環境問題への貢献、③ビジネス利用だ。
「だいち2号」は「だいち」に比べて分解能がアップ。約3メートルのものまで見分けられる。写真は舞浜駅周辺(提供:PALSAR/JAXA,METI(左)・Pi-SAR-L2/JAXA(右))
まず①の災害対策について。日本は自然災害が多い国だ。地震、洪水、火山噴火、土砂崩れなどの災害時に、航空機などで観測するのは困難な場合も多々ある。一方、人工衛星は地上の状況に関わらず、観測できる。「だいち」は東日本大震災の際も津波による浸水の被害状況や、地殻変動を捉え貢献した。また2011年2月霧島山新燃岳が噴火した時は悪天候で火口内の監視が困難だったが、「だいち」が火口内や溶岩噴出状況を確認し、気象庁火山噴火予知連絡会に提供されている。気象庁地震火山部の火山対策官・松森敏幸さんは「2013年11月下旬には西之島に新島が出現し、噴火活動が継続するなど、日本周辺の火山活動は活発な状況」だと説明し、「だいち2号」の早急な運用開始に期待を込めた。
さらに地盤沈下や地滑りも監視し、2009年5月に山形県七五三地区で地滑りが発生した際は事前に兆候を捉え、4月の住民の避難指示に役立てられている。つまり災害時の迅速な状況把握→応急対応→復旧・復興→予防という防災活動の各サイクルで活用可能なのだ。
海底火山の活動監視にも。写真は航空機搭載レーダが観測した西之島の火山活動。1月と2月で変化している様子がわかる。「だいち2号」でも同様の観測が期待できる。(提供:Pi-SAR-L2/JAXA2014)
そして②環境問題への貢献では、「だいち」の実績としてアマゾンの違法伐採の取り締まりが上げられる。雨期でも観測できる「だいち」の観測データをブラジル政府に提供、約3年間のプロジェクトで伐採面積が半分以下に減るという成果をあげた。しかし「だいち」が2011年5月に運用停止後、再び違法伐採が増加傾向を示したことから、ブラジル政府は「だいち2号」の打ち上げを待ち望んでいた。このプロジェクトを率いたリモート・センシング技術センター(RESTEC)の小野誠さんによると「だいち2号は観測頻度が高く分解能もアップするなどデータの質がいい。また違法伐採を見つけるために強力な機能も追加されている」という。前回は国際協力機構(JICA)の技術協力プロジェクトとして資金が出たが、今回もJICAはやる気だそう。資金が出れば「自動的に伐採地を判別し、少ない人手で早く検出できるようにして欲しい」というブラジル側からの要望にも答えられる可能性が大きいという。
小野さんは、元々は三菱電機で初代のレーダー観測衛星である「ふよう」に搭載されたレーダーの設計責任者だった。レーダーの中でも森林と地表面の両方が観測できるLバンドを採用するのは現在、日本だけで「お家芸」と言われるが、その生みの親とも言える人物だ。「だいち2号」では樹木の高さが推定できるのでは、と楽しみにしている。木の高さが求められれば、森林がどれぐらいの炭酸ガスを吸収しているのかという「バイオマス量」が推定できる。排出量取引ビジネスでもバイオマス量の算出が焦点になっているにも関わらず、現在は全世界を統一的に測定することが難しい。「だいち2号」が全世界、同一規格で森林のバイオマス量を測定ができれば、画期的だ。
そして③のビジネス利用。特に土木分野や農業分野への利用が期待されている。例えばテーマパークやマンションを作ろうと考えている会社が、地盤沈下や地滑りがないかを調査したり、農業については作物の作付け状況を把握することで食料安全保障や投資などに活かされたり、など様々な分野での利用を広げたい。
田植期(2013年6月10日)は暗く見えた水田(青枠内)が稲が育つ生育期(同年8月8日)には明るく見える。このように明るさの変化から作付けを判断できる。航空機レーダで撮影(提供:農業環境技術研究所/RESTEC/JAXA)
ここまで説明したように高い性能を持ち、幅広い分野への利用が期待される「だいち2号」だが、利用が広がるためには課題もある。まず、「レーダー画像」への敷居の高さだ。見た目が白黒でわかりにくい。私たちが日常見る「可視光」の世界とレーダーでとらえる世界が異なるからだ。そこでまず、見た目の敷居を下げるために前述のRESTECはレーダ画像から緑地、地面、水面などをカラー化する技術を開発。ぱっと見た目は光学画像と変わらなくなった。
このカラー化技術を担当したRESTECの古田竜一さんは「レーダー画像が様々な用途に『使える』という実感をまず持ってもらうことが大事」という。実際にはレーダー画像を使うにはデータを購入後に「解析」という作業が必要だ。画像から必要な情報を取り出し見える形にしなければならない。この解析業務をRESTECなど専門の会社に頼む事も可能だが、毎回、利用者が自らの手を動かさず依頼するようでは、利用は広がっていかないという危機感を、専門業者自身が持っている。
「だいち」が取得したモノクロ画像(左)に緑地は緑色に、水面は青黒く、地面は茶色にと、光学画像の色合いに近づけたのが右の画像。RESTECが世界で初めて開発。地表が判別しやすくなる。(提供:JAXA/METI(左)・RESTEC(右、特許申請中))
そこで例えば「天気図」のように、一般の方が頻繁に見える形で解析結果を露出していくと共に、研修などで解析を体験してもらう、データを購入した顧客に解析技術の指導を行うなどして「こんなに使えるんだ」と理解を深めることが出発点となる。古田さんが期待するのは高速道路や堤防など、インフラのモニタリングへの活用だ。全国の道路を実際に走って点検するのは時間も手間もかかるが、衛星を使えばこのあたりが危険というアラートを出すことができると。
まだまだ地球観測は技術開発が中心だ。「だいち2号」をきっかけに「利用者側」の立場に立って、精度を上げて使いやすくし、さらに衛星を途切れることなく継続して打ち上げていく必要がある。また国の防災計画についても補完的でなく、防災対策のマニュアルにしっかり組み入れて活用してもらいたい。宇宙開発を私たちの暮らしに本当に役立てるために、「だいち2号」をいかに幅広い人たちに使ってもらうか。勝負はこれからだ。