和食シリーズ企画第3弾
第6回 酢
伝統と革新。
歴史と技術を
次世代へ伝える博物館
料理の味の陰の立役者である酢の造られ方、ご存じですか。
ミツカン本社に併設されている「MIZKAN MUSEUM(ミツカンミュージアム)」
(愛称:MIM(ミム))では酢の歴史から造り方まで、そのすべてが楽しめてしまうのです。
愛知県の半田市。ミツカン本社の隣にある体験型ミュージアム「MIM」では昔と今の酢の造り方を知ることができ、原寸大の江戸へと酢を運ぶ巨大な船があり、さらにはすし職人体験コーナーなどもある、バリエーションに富んだ体験型の施設です。5つのゾーンにわかれた館内をアテンダントのスタッフが70分ほどかけて案内してくれます。
江戸の造りから見える、酢の本質
ゾーン1「大地の蔵」は、江戸時代と現代の酒粕酢造りを見ることができるエリア。細かい部分に違いはありますが、造り方の基本的な原理はどちらも同じ。いい原料を仕込み、アルコール発酵でもろみをつくる。そこに酢酸菌を加えて酒を酢に変え、じっくり熟成させる。
わかりやすいのは、やはりすべての工程が目に見える江戸時代の造り方でしょう。
- 1. 酒粕を熟成させて旨みと甘みを引き出す「粕熟成」
- 2. 水を加え、約1週間かけてアルコールや旨みを引き出す「もろみ作り」
- 3. 圧をかけて"酢もと(酒)"を絞り出す「圧搾」
- 4. "酢もと"の半分を温める「沸かし」
- 5. 種酢(たねず)と合わせて酢酸発酵させる「仕込み」
- 6. 2~3ヶ月熟成させてまろやかにする「貯蔵」
- 7. 不純物を取り除く「ろ過」
- 8. 樽詰めする「詰め口」
- 9. 最後に満量まで酢を追加して樽を縄で縛り、「荷造り」となります。
江戸時代の工程の展示コーナーには、当時の用具を再現し、展示してあります。一方、階下には、現代仕様の生産エリアも備えていて、昔と今の設備の違いがわかります。さらにこのゾーンでは、創業時の純酒粕酢「三ツ判®山吹®」も実際に造っているのだとか。静置発酵室で、フタを開けると酢造りに次かせない酢酸菌の膜がびっしりと表面を覆っている様子が見られます。
「酢酸菌は好気性の菌なので空気中の酸素を必要とするため、液の表面に薄い膜を作り、膜のすぐ下にある酒を酢にしていきます。このような状態で、約2週間かけて発酵が進みます」
アテンドのスタッフの説明は詳しいだけでなく、裏話も交えての興味深い話ももりだくさん。ゾーン2「風の回廊」は思わず見惚れるような半田の情景などが展示されています。ゾーン3「時の蔵」は全長約20メートルという実寸大の弁才船を再現。半田から江戸まで酢を運ぶ航海を体感できます。ゾーン4「水のシアター」、ゾーン5「光の庭」と一日いても飽きないほど。
暮らしのまわりにあるもの、それが酢
一巡してみると、すべてのゾーンで「体験」を大切にしているのがよくわかります。視覚に訴えかける一大スペクタクルに、さまざまな酢をかぎわける香りのテイスティング展示、実際に飲むことができる新しい味わいの酢など、どの展示も五感に訴えかけてくる仕掛けがそこかしこになされています。
「味」は本来、個人的で主観的なもの。そして酢は暮らしのなかで、日常的に使うもの。だからこそ、ミツカンミュージアムはここでしか体験できないもの、ここでこそ体験できるものを展示しているのです。
2017.04.03