和食シリーズ企画第3弾
第17回 鮪
潜入!
近大マグロの
育つ海へ!
いざ、マグロ養殖の最前線へ!
和歌山県串本沖には
マグロの一大養殖場がありました!
受け継がれた完全養殖を次代に継承するために
マグロの養殖について岡田さんに話を伺っていると「海で実際に養殖しているいけすを見てみませんか」と誘われた編集部一同。一も二もなくいそいそと船に乗り込ませていただきました。
近大の水産研究所があるのは、本州最南端の和歌山県串本町の沖合1.8kmの海上に浮かぶ紀伊大島。1999年、「くしもと大橋」が架橋されたことで現在では陸路でも渡れるようになっていますが、それまでは本州側とフェリーなど海路で結ばれていました。
その紀伊大島の漁港から漁船に乗せてもらい、クロマグロを飼養しているいけすへと向かいます。現在、内海と外海合わせて、近大のいけすは串本大島事業所だけで18か所。直径約20~30m、深さ10mほどのいけすで5800尾、奄美にある事業所も含めると計29のいけすで1万尾以上の「近大マグロ」を育成しています。
この日、岡田さんが船を向けたひとつめのいけすは、内海に設置された真円形のもの。
「近大マグロは、まだ100%満足の行く仕上がりにはなっていません。いまよりもいい飼料や育て方、水揚げ法を模索し続けています。そのため、違う条件で育てた個体同士を比較する必要があります。同じ生まれ年でも、天然魚の飼料と配合飼料という風にいけすごとにわけて管理しています。面白いことにクロマグロも生育環境で味の好みが変わるのか、天然魚で育つと天然魚好きに。配合飼料で育つと配合飼料好きになる。配合飼料で育てているいけすに天然魚を放り込んでも、食いつきが悪かったりするんです」
餌を撒き終えた岡田さんは、次のいけすに向けて舳先を変えます。
今度のいけすは2014年生まれ、3~4歳になるクロマグロです。平均体重42 ㎏とグッと魚体も大きくなり、スーパーなどでももっとも重宝される型があがるいけすなのだとか。ここでは、本日出荷するマグロを巨大な釣り針に餌のサバをつけての一本釣り!
豪快に撒き餌のサバを水面に放ると、目を見張るスピードで魚影が目の前を通り過ぎます。生まれ年が同じとはいえ、型や性格も一尾一尾違い、食いつき方も異なるのだとか。もっとも出荷に適したいい型のものを釣り上げたいところですが、どのマグロも餌だけを狙って虎視眈々。釣り手も息を潜めながら二度、三度とタイミングを見計らい、ここぞというタイミングでピッとマグロの鼻先へ。
瞬間、糸がギシギシと張り詰めます。ヒット! にわかにあわただしくなる船上へと、
一気に魚体を引き上げます。身に血が残っていると保存性が下がるので動脈をカットした後、ワイヤーを取り出し魚体の鮮度を保つ神経〆という作業を行います。
実は動脈を切って放血させるのには、体内から血を抜く以外にもうひとつ、近大マグロならではの目的があります。
「実は飼料や引き揚げ方、〆たときの状態などによって、魚体の状態や食味がどう変わるか。それを照合するための血液データのサンプルを取得しています」
データは食味テストや飲食店から上がってくるフィードバックと照らし合わせられ、蓄積されていきます。近大マグロは市場へと流通しながら、よりよい完全養殖のための礎にもなっているのです。それは国家的プロジェクトとしてスタートした48年前、1970年から脈々と受け継がれてきたバトンを次代へと渡すことにもつながっているのです。
急速に進化する近大マグロに岡田さんは期待を寄せます。
「早ければあと5年、長くても10年以内には近大マグロのステージをさらに大きくステップアップさせたいですね。5年で配合飼料でも天然資源の飼料と同レベルまで食味を向上させ、10年で魚由来ではなく代替タンパク質で同じレベルの食味への到達を目指したい」
魚食が世界的なブームになるなか、各国で引く手あまたのクロマグロ。そこに安定供給の道筋をつける。それは世界中でもっともクロマグロを知る、日本の水産業の役割です。近畿大学水産研究所は、我々が想像するよりも遥かに壮大な未来の一翼を担っているのかもしれません。
2018.03.01