「これからの和食を考える。」 編集部 振り返り座談会「これからの和食を考える。」 編集部 振り返り座談会

「そもそも和食ってなんだろう」。
私たちがそんな疑問を抱いたのは、「和食」が無形文化遺産に登録された2014年のことでした。
以来、学識者の方から「和食の基礎知識」、料理に携わるシェフや料理家から「郷土料理」についてお話を伺い、
和食という日本の食文化にさまざまな形で触れてきました。
そして2016年からシリーズ第3弾「これからの和食を考える。」として、
日本の食卓の未来について考える連載企画がスタート。
第1回の「しょうゆ」から最新の「鮪」まで全17回にわたり、和食の基本となる様々な調味料や食材を訪ね、
全国各地の生産者や専門家の方々からお話を伺いました。
今回は、企画の総まとめとして、取材やレシピ開発を通して見えてきた「和食のこれから」について、
本編には載せられなかった裏話なども交えつつ、編集部員の振り返りでお送りします。

身近なところにある伝統製法

司会
「これからの和食を考える。」連載企画では、しょうゆやみそといった「和の調味料」に始まり、かつお節や昆布などのだし材、海苔や豆腐といった加工品、ねぎや大根など和の野菜、そして魚食の象徴でもある鯛などなど……。全17回に渡り、各分野のプロフェッショナルにインタビューを行い、現代の食卓に合わせた和食レシピをご提案してきました。

全国でも最上級の昆布を集める、福井県の昆布問屋「奥井海生堂」

編集部員A
全国さまざまなところに足を運んで、いろんな方にお会いしましたよね。昆布は福井県の昆布問屋、干ししいたけは大分の専門農協と農家、きゅうりは福島の生産者と祭りの主催者、鮪は和歌山にある大学の海洋研究機関……。地域も業種もさまざまでしたが、知らないことばかりで、毎回とても刺激的な取材でした。
司会
しょうゆ、かつお節、酢、豆腐、海苔といった、実はその成り立ちがあまり知られていなかったり、製造工程が見えにくい食品の工場にもたくさん伺いました。

現代のしょうゆづくりは機械化されつつも、醸造の基本的な部分には、時間をかけて自然の働きが活かされている。
(写真は、「キッコーマン」野田工場)

編集部員B
大量生産を行う大手の食品メーカーが、思いのほか昔ながらの製法を大事にしているのは正直、意外でした。大手の食品メーカーって、効率化を最優先していると思い込んでいたんですが、味や品質を左右するようなものづくりの根幹の部分では、機械化など先端の技術を採り入れながら丁寧で手間暇をかけたものづくりをされていました。
レシピ担当
特にしょうゆや酢は発酵という工程が必要ですし、かつお節も本枯節を作るにはカビづけしての乾燥という工程が欠かせません。自然の力を借りる食品には時間がかかる。歴史ある大企業はそのことを誰よりも理解して、大事にされていましたね。

知るほどに惹かれる。それが和食

司会
専門家から教えていただくことには、必ず新しい発見がありましたよね。
編集部員A
なすの回でやまけんさんーー農業コンサルタントの山本謙治さんに教えていただいたなすの食べ比べには驚きました。私、なすが大好きなんですけど、あんなになすに種類があって、食味も違うとは。それぞれの身質に合った調理法や知らなかった食べ方も教えていただけて、おいしかったし、楽しかったなあ……。
編集部員B
ひとつの野菜に知らない品種がたくさんあることにも驚きましたね。ふだん私たちが店頭で目にする品種は、形状やサイズなどが流通に乗せやすい一部のものなんですね。また、大根やかぶといった根菜類は、同じ種でも植える土地が変わると、味はもちろん姿かたちまで変わるというのにも驚きました。
レシピ担当
レシピ担当としてはねぎの回も印象的でした。あの回の新提案レシピ「ねぎの天ぷらとかき揚げ」は、千住葱市場の葱商、「葱茂」の安藤将信さんに、ねぎのおすすめの食べ方を伺ったことがヒントになっています。
編集部員A
あれはおいしかったですね!安藤さんが「甘みが凝縮された上、ほんのり香ばしさもあって最高」とおっしゃった通り、あんなに甘みを感じるねぎ料理は初めてでした。あの取材以降、お店で千寿葱を見かけると、ついつい手が伸びてしまいます(笑)。
編集部員B
とにかく「知る」ことの多い企画でした。それは裏を返せば、いかにいままで自分の国の食文化について無知だったか、ということでもあるんですけど。「知る」という体験で行動が変わりました。調味料にしろ食材にしろ、知れば知るほど和食のことが好きになって、そして楽しめるようになっていきましたね。

家庭でこそ、きちんとした食材を選びたい

司会
この企画では、さまざまな和食料理をご提案してきました。ただ、「家庭で作る和食」の場合、どこまできちんと作るか、どこで肩の力を抜くか。特にレシピ部分は、そのバランスの取り方が難しかったのでは?
レシピ担当
まさにそうでした。いろいろと試行錯誤しましたが、家庭で作る和食は日常のことですから、手間暇をかけ過ぎなくていい。そういう家庭の台所から見た立ち位置を大切にしました。和食は基本調味料だけでおいしいおかずがしっかり作れる。日本の調味料は、あれこれ重ねなくてもおいしくなるし、むしろ「素材の味わいを引き出す」にはシンプルなほうがいい。手をかけすぎなくても、狙いに沿った調理ができれば、それで十分おいしくなるはずです。

全国でも最上級の昆布を集める、福井県の昆布問屋「奥井海生堂」

編集部員B
そのためにも素材をきちんと選びたいですね。たとえ最高級品ではなくとも。今回の企画で素材や食材の見極めのコツを知って、僕ら自身も店頭で選ぶものが変わりました。かつお節でだしを引くなら裏の表示を見て「本枯れ節」がいいなとか。たまには少し張り込んで千寿葱にしようとか。
編集部員A
そうした良質な素材に関わられているのは、ご自身の仕事に誇りをお持ちの方ばかりでした。その努力や信念を垣間見たことで、われわれも一消費者としてきちんとした素材を選んでいきたいと思いました。知識を得ることは、食材を選ぶための基準が増えるということ。実際、自分の目で選んで納得して商品を選ぶのはとても楽しいです。
司会
情報があふれかえる時代だからこそ、きちんとした知識に基づいた素材や調理法を選んでいく。そうした姿勢は、「素材を活かす」と言われる和食にこそ、そして日常の食の担い手である家庭にこそ必要とされることなのかもしれません。

司会・構成/松浦達也 撮影/魚本勝之 柿崎真子

2018.05.16

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