若狭高校「宇宙サバ缶」チームが野口飛行士に直撃!意外な改善点とは?
宇宙からYouTubeで動画を発信し続けた「ウーチューバ―」こと野口聡一宇宙飛行士が、ISS到着後の2020年11月末、最初に投稿した動画が何か覚えていますか?栄えある初動画は、福井県の高校生が開発した宇宙日本食「サバ缶」の食レポだったのだ。
「大変美味しいです!おいし~!」、「しょうゆの味がしっかり染みています」
B級グルメとしても知られる野口飛行士が大絶賛したサバ缶。福井県立若狭高校(統合前は旧小浜水産高校)の生徒たちが、2006年から授業の中で開発をスタート、2018年11月にはJAXAから33番目の宇宙日本食「サバ醤油味付け缶詰」として正式に認証された。学生が開発した食品が宇宙食に正式認証されたのは日本初、おそらく世界でも類をみない。
18世紀頃、若狭から京都の朝廷に鯖を運んだ道は「鯖街道」と呼ばれる。「鯖街道を宇宙へ!」を合言葉に取り組んできた歴代の生徒たちの夢が、14年の年月をかけて、ついに叶えられた瞬間だった。
現・若狭高校宇宙サバ缶チーム3人組は感激ひとしお。「野口さんに食べて頂いて夢が叶ったのでとても嬉しい」(西本光里さん)「地元のPRにもなってよかった」(広田真望さん)「数ある宇宙日本食の中で最初に紹介してもらって、野口飛行士には感謝しかない」(辻本咲里さん)興奮しつつも感謝や先輩・地元への配慮を忘れない。
3人は心を込めて野口さんに感謝のメッセージを書いた。その「ファンレター」が写真と共に野口飛行士の手に渡り、2021年1月、「サバ缶の宇宙的レシピ」として再びYouTubeで紹介された!(欄外リンク参照)。若狭高校の宇宙サバ缶プロジェクトを取材し続けている「(勝手に)宇宙サバ缶応援団」の私としては感涙ものである。
実は若狭高校では今も宇宙サバ缶の研究開発を続けている。「より美味しく、身体に良いもの」「過酷な環境で仕事をする宇宙飛行士に喜ばれるもの」、つまり「極上の宇宙サバ缶」を実現するためにも、今回宇宙に送られたサバ缶の感想を聞きたいに違いない。そこで、2021年7月、野口飛行士が帰国されたチャンスに若狭高校宇宙サバ缶チームと共に取材を申し込み、時間を取って頂くことができた。
しっかり味が染みていた。貴重な魚料理
若狭高校の3人組+サバ缶先生(小坂康之先生)とリモートで繋がるやいなや、野口飛行士は「見たことある3人じゃないか」と嬉しそう。ISSで見た写真を覚えていて下さった様子。3人は思わず拍手!さっそく、西本光里さんからQ&Aが始まった。
「長年受け継がれてきた研究の目標『宇宙飛行士の方に食べてもらう』という、私たちの夢も先輩の夢も叶えられたのでとても嬉しかったです。サバ缶の感想を改めて教えて下さい」
まず味は「とても美味しかった」と野口さん。さらに「缶詰としてのできばえも素晴らしかった。あけやすいし、あけた時に汁がパッと飛び散ることもない。そしてお魚に汁がしっかり染みた状態でした。アメリカ人、ロシア人飛行士にも食べてもらったけど、好評でしたよ」
シーフードは宇宙食メニューの中でもあまり品数が多くなく、日本の美味しいシーフードを宇宙で食べられて外国人飛行士もみんな喜んでいたそう。「ロシア人はシーフード好きなので喜ばれたと思います」(野口飛行士)
味のバリエーションを
辻村咲里さんは、改善点について質問。「今後のサバ缶に対する要望はありますか?」
「長年開発されてきて、素晴らしい出来で完成品だと思います。今の(しょうゆ味)もすごく美味しいけれど、人によって好みが違うから味を変えたバージョンがあると、楽しめていいんじゃないですかね」。野口さんは具体的な例を挙げて下さった。
「例えばトマトケチャップ煮とかにするとイタリア料理っぽくなって外国人飛行士にも受けがいい。鯖は若狭湾の名産で、しょうゆ味は日本人になじみがありますよね。(同じように)外国人が食べた時に、『自分たちの故郷の食べ物と似ている』と感じるフレーバーも作ってあげるとか。オリーブオイルやトマトケチャップを使ってみるのもいいんじゃないでしょうか」。
そう言えば、「サバ缶の宇宙的レシピ」で野口さんはサバ缶+トマトソース+バジルソースで美味しそうに食べてましたよね。
ここで広田真望さんが直球質問!「宇宙で一番食べたくなるのはなんですか?」
「『サバ缶です!』と言いたいところですが、結構カレーライスが好きなので色々なフレーバーを持って行きました」野口さんの答に一同爆笑。
「宇宙では味覚がちょっと変わるので、地上で『すごく美味しい』と思っていても、宇宙で食べると『なんか味薄いな』と感じる可能性がある。だからラーメンでも色々なバラエティを持って行くんです。塩味とか味噌味とか、サバ缶にはとんこつ味はないかな。『今日はこれが美味しかった』と楽しめますよね」 同じ素材でも味やフレーバーのバリエーションのニーズは大きいようだ。
実は彼女たちのチームはサバ缶を柔らかくする研究の過程で、ゆずや酢を使うといいことを科学的に解明した。ゆず味のサバ缶も柔らかく風味があっていいかもしれない!
無重力下の食体験ならではの意外な改善点は?
現在も「極上宇宙サバ缶」を目指した開発は続けられている。後輩からの質問も野口さんにぶつけた。「機能性を重視した宇宙サバ缶の開発をしています。放射線の防護性能がある食品やサプリで既に利用されているものはありますか?」
「大事なポイントですね。機能性食品という意味では宇宙で骨が弱くなる可能性があるので、カルシウムやビタミンDのサプリを摂っている人は多いです。その点、サバ缶はカルシウムが豊富でプロテインもあるし、健康食品としてもすぐれていると思いました」
宇宙食開発に14年間伴走してきた小坂康之教諭は「粘度」つまり粘り気が今の状態でよいかどうかについて質問。
「汁が(無重力状態で)飛び散るのは防いだ方がいいので、今の粘度でいいと思います。あえて改善点をあげるなら、サバのサイズ。もう少しちっちゃめにした方がいいと思います。重力があれば、おはしで挟んだ範囲しか缶から出てきませんが、重力がないのでごそっと(サバが)出てきてしまう。からあげクンとかカップヌードルの麺のサイズは小さくしています。サバ缶のサバももうちょっと小さく、消しゴムサイズぐらいだといいかもしれません」
これは貴重なアドバイスだ!若狭高校のサバ缶は生徒たちが鯖をさばくところから缶に詰めて殺菌するところまで製造しているが、缶のサイズに合わせてサバを綺麗に切るのは、かなり力と技がいる作業。指を切ってしまう生徒もいたようだ。さらに小さく切るのは大変では?と聞くと「できます!」と生徒たちは即答。頼もしい!
これからの夢は?—月でサバ缶!?
「これからの野口さんの夢はありますか?」最後に広田さんは尋ねた。「月や火星に向けて日本人宇宙飛行士の活躍の場が広がっていくと思う。私も月に向かって努力していきたいと思います。次は月を見ながらサバ缶を食べられるように頑張りたいと思います!」
ファンレターが写真と一緒に宇宙に届いた時、「本当にうれしく思いました」と野口さんは語る。「若狭高校の人たちがずっとサバ缶を開発している話は聞いていたが、お顔を見ることができて、今日もリモートでお話できました。漢字4文字の若狭高校ではなくて顔が見えると、先生も含めてこういう方たちが作ってくれたというパーソナルな思い出になりますね」。
取材を終えた感想を聞いた。「野口さんに実際に質問できて宇宙飛行士の方々の想いがわかり、とても勉強になりました」(西本さん)「野口さんと初めてお話して人柄の良さがわかり、改善点も聞けたので後輩に伝えたい」(広田さん)、「お話出来て本当に光栄でした。サバ缶の事を直接聞けていい体験でした」(辻村さん)。生徒たちにとって、この15分間は生涯忘れ得ない。かけがえのない時間になったようだ。
鯖街道はISSに届いた。次は、月に挑む宇宙飛行士が故郷を思い出せるように「鯖街道、月へ届け!」
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