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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

パリ協定だけじゃない。2015年は環境・災害「節目の年」。地球観測衛星はどう役立つ?

系外惑星が次々と発見され、地球以外の生命体が見つかるかも知れない時代。宇宙・天文ファンにとって外に目が向きがちではあるけれど、私たちの地球は異常気象や災害が頻発、大変な状況にある。そんな中、パリで行われていた国連のCOP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)は「パリ協定」を採択した。発展途上国も含む195か国が協調して、温室効果ガスの削減に取り組む、初めての枠組であり、「歴史的な転換点」と報じられた。ブラボー!

だがこれは出発点にすぎない。今後、地球温暖化や災害などの課題解決に、地球観測などの宇宙技術はどのように貢献できるのだろう? そのアクションは始まっている。今年2015年はCOP21を含め、人類が直面する災害や気候変動などの解決に向けて、10年以上の目標について、3つの大きな国際的枠組みが定められた。ざっくり会議と結果を紹介すると

1. 第3回国連防災世界会議@仙台 3月
2015~2030年の国際的防災指針「仙台防災枠組み 2015-2030」が採択された。災害のリスクを予防して今のリスクを減らす。災害がたとえ起こっても立ち直りやすくする。そのためにも災害が起きたとき、復興時、災害の予知についてグローバルに、そしてローカルに地球観測衛星を活用すべきだと指針に書き込まれた。

2. 持続可能な開発サミット@国連本部 9月
2015~2030年の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。元々2000~2015年のミレニアム開発目標は、途上国の貧困対策を目標にされていたが、開発だけでは環境が壊されてしまう。そこで新しい目標は「持続可能な」開発目標として17のゴールが掲げられた。このゴールに対して、目標が達成されているかどうか、100の指標が設けられる予定。日本は森林や大気観測などについて地球観測データが活用できるのではと議論がなされている。

3. COP21
2020年以降の気候変動についての国際的枠組み「パリ協定」採択。産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるとともに、1.5度未満に収まるよう努力する。196か国が温室効果ガスの削減目標を提出し、国内対策をとる。2023年から5年ごとに世界全体で対策が進んでいるか点検するところが鍵。

2015年は地球規模の課題解決に向けて、今後10~15年の国際的な枠組みが3つ定められた。人類が地球と共存していけるかどうか、試される10年になるでしょう。画像はひまわり8号が撮影した地球。(提供:気象庁)
※気象庁「ひまわり8号による初画像 新しいウィンドウが開きます」を加工して作成

地球観測データを、使いやすい情報に変えていく

ではこれらの課題に向けて、地球観測衛星は何ができるのか。

2015年11月2日に東京で行われた「地球観測衛星データ利用シンポジウム2015年」(JAXA主催)の発表によると、気象衛星ひまわり初号機(1977年7月)以来、約20機近くの地球観測衛星を打ち上げている。最初の約半分は「正確に測れるか」という技術実証だったが、後半10年では成果が出てきている。これからより精度をあげていくそう。

JAXAが過去から打ち上げてきた地球環境衛星と今後の計画。(提供:JAXA)

実際の成果例では、陸域観測技術衛星「だいち」の観測データを用いた、アマゾンの違法伐採の摘出(結果的に違法伐採や約半分になったという報告も)、北極海の海氷が予想より早く減っている事実がわかったのは、初期にはアメリカの衛星Aquaに搭載された日本のセンサーAMSR-Eの観測、現在は日本の観測衛星が活躍している。また、アメリカの気象機関NOAAが日本の衛星データを用いてハリケーンの進路予想を行っていることなど、様々な事例がある。

今後の活用の鍵となるのは、宇宙だけでなく地上の観測データを取り入れ、さらに「モデル」と組み合わせることだという。地球観測衛星で「観測できました」、「こんなに詳しくわかります」で終わるのでなく、今後どうなるかを予測するにはモデルが必要なのだ。例えば天気予報を例にとっても、気象衛星ひまわりや全国20か所のレーダー、1300か所のアメダスなどの観測データをスパコンに入力、モデルで計算して、将来の気象状況を予測している。モデル構築には気象、洪水予測、気候変動など各分野の研究者の協力が欠かせない。

アマゾン熱帯雨林を陸域観測技術衛星「だいち」(2009年)と「だいち2号」(2014年)の画像で比較したもの。赤色が、減少した森林域。(提供:JAXA/METI)

さらに、途上国などで政策判断や意思決定に活用してもらうには、「(観測データを)社会経済的な情報に翻訳していくことが必要」と東京大学教授で水対策・リスクマネジメント国際センター長・小池俊雄氏はいう。これはどういうことだろう?

JAXA衛星利用運用センターの松尾尚子さんによると「例えばアジア地域の国際河川上流で今、雨がこれだけ降っていると観測できたとします。それが何日間かかけて下流の国に流れるのか、下流でどのくらい水位が上昇するか、堤防が決壊するか否か。もし決壊した場合、浸水地域は住宅なのか、農地なのか、産業地帯なのかというところまでが意思決定に必要な情報です。政策決定者が意思決定するために必要な情報は何かについて、役所や地方自治体と一緒になって考えないといけない。必要な情報はどんどん進化しているのです」とのこと。

実際、パキスタンではJAXAの地球観測データを活用した洪水警報システムを作ることに成功している。パキスタンでは2010年に洪水によって死者約2000人に及ぶ甚大な被害を受けている。そもそも複数の国を流れるような国際河川では、河川に関する国同士の情報共有が難しいと言われている。ところが、人工衛星は地球のどこでもグローバルにデータを得られる「透明性」が売り。そこで2011年から、観測衛星の降雨データからモデルを用いて地域住民に洪水警報を出すシステムが、ユネスコプロジェクトとして実施されている。

21世紀は水の争い

COP21で採択された「パリ協定」への貢献はどうだろう?日本は世界初の温室効果ガス観測専用の衛星「いぶき」を持っている。「いぶき」の観測によると、月別の二酸化炭素の全球平均濃度は季節変動はあるものの年々上昇しており、2015年5月に約398.8ppmを記録。2016年には400ppmを超えると予想されている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では「450ppmを超えると平均気温が2度上昇する」とされていて、黄色信号が点灯している状態だ。現在の「いぶき」は全球や大陸別の観測データを出すことは可能だが、国別の温室効果ガスを計測できるようになるのは、「いぶき」の将来衛星になる見込み。国別の計測ができれば「パリ協定」で定められた、国ごとの対策の点検に活用できるだろう。

温室効果ガスに目が向きがちだが、水についても注意が必要だ。「21世気は水をめぐる争いの世紀になるだろう」と1995年に世界銀国の副総裁は発言。実際、豪雨の回数は増えているのに渇水が問題になっている地域もある。さらに水は共有財産であるはずなのに、水政策は、環境、農業、工業など分野別に縦割りで管理されていて、問題解決を複雑にしている。

「水の情報を持っている人が水循環だけでなく、農業や感染症など他の分野にも使えるように、横断的にアプリケーションを考えていくことが大切です。モデルを作っている研究者と連携するのはもちろん、たとえば途上国の課題を熟知しファンディングを行うJICA(国際協力機構)のような組織とも連携するなど、JAXAはコーディネーションしていく役割が求められています」(JAXA 松尾尚子さん)

宇宙だけでなく様々な専門家と連携し、人類が総力をあげて取り組めば、解決への道筋が見えてくるはず。人類が宇宙文明へ進化するための課題のようですね。では良いお年を!

日本の観測衛星がとらえた2015年9月14日の北極海の海氷。史上3番目の小ささ。(提供:JAXA)