IoT緑化シェード
【オープンイノベーション活動】緑のシェードで都市に快適空間を
FA×農業×建設
IoT Green Shade
【FA×農業×建設】の異業種コラボで挑戦したのは
都市緑化推進ソリューション
概要
IoT Green Shade(以下、IGS)は、適した植物でシェードを作り、その生育をFA機器とIoT技術で管理する取り組みです。かん水などの制御を自動化したうえ、リモートでの監視・育成管理も実現します。これは異業種のパートナーとともに企画・推進してきたもので、これまで2020年、2022年の2年度にわたり4カ所でPoC(実証実験)を実施しました。2023年度も都市緑化のさらなるノウハウ獲得と、人が集まる快適空間としての効果検証を目的にPoCを行い、その先にはカーボンニュートラルに代表される環境課題解決への貢献も視野に入れています。
IGSは都市の屋外に「涼」を届ける植物シェード
IGSは、植物の屋根と気化熱により、屋外で涼しい空間を作り出す植物シェードです。シェード内にはFA機器やIoT技術を組み込み、かん水とミストの制御を自動化することで、一般的な植物シェードと比較して冷却効果を高めつつ、管理の手間を大幅に削減し、容易にしました。空調機器を使わずに涼しい空間を生み出せるだけでなく、自動制御により現場管理員が不要なこと、遠隔からの監視・育成管理が可能であることなどから、都市緑化に適したソリューションです。
IGSではセンサを通じて機器の情報を取得し、かん水・ミスト制御の自動化やリモート監視・管理を実現しています。各センサで取得した情報は、現場ではもちろん、クラウド上のダッシュボードで遠隔地からも確認できます。
かん水については鉢の中の水分率を土壌センサで取得し、その値に応じて電磁弁の開閉をシーケンサで制御することで最適化を行っています。従来の自動かん水システムは毎日一定時刻に一定量の水やりをするのが一般的であるのに対し、IGSはセンサを活用して植物に合わせた最適な育成環境を構築できる点が特長です。
またミストについては、AIカメラを用いた人感知システムと気象センサの値に応じて、最適なタイミングでミスト噴霧するように制御し、快適さを提供するとともに無駄も省きます。
「緑あふれる地球をつくる」
オープンイノベーションへの取り組み
三菱電機FAが、これからのよりよい社会の実現と次世代を支えていくためには、何に取り組み、どのような新事業にチャレンジしていくべきなのか――。この問題意識から、2018年に三菱電機名古屋製作所で発足した「事業戦略プロジェクトグループ」(以下、事戦グループ)は、当社初のオープンイノベーション活動をスタートさせました。その取り組みのひとつが、「三菱電機アクセラレーションプログラム2019」です。これは、業種を問わずスタートアップ企業から広くビジネスアイデアを募り、PoC実施から社会実装を目指した企画開発のためのプログラムです。
プログラムには50社の応募があり、1ヵ月にわたる議論、検討の結果、Society5.0、SDGsの実現に貢献できる企業として4社を選定しました。そのうち3社は当社FA事業と親和性の高い企画でしたが、今回ご紹介するのは、FAとは全く世界が異なる農業分野、鈴田峠農園様からの企画からスタートしたプロジェクトです。
「緑あふれる地球をつくるには、いま行動しなければならない」というカーボンニュートラル達成に向けた熱い思いのもと、提案された鈴田峠農園様のアイデアに対して、当初はさまざまな意見が出されました。都市緑化による快適空間の提供だけでなく、環境問題解決への貢献も期待できるという意見や、異業種とのコラボで今まで見えてこなかった新たな発見や価値創出につながるのではないかという意見。一方で、当社のFA技術がどこまで関れるのか見えないという意見もありました。
そうした中で、当社としては「カーボンニュートラルは必ず取り組まなくてはならない重要課題である※」という認識のもと、SDGsの目標達成への寄与、異業種との共創が社会のみならず社内に与えるインパクトを高く評価し、このチャレンジを決意しました。
※2019年当時は、まだ政府によるカーボンニュートラル宣言が出される前。
決まったセオリーが通用しない「土」や「植物」。
農業の本を紐解きながらFA技術を適用
選定当初は、鈴田峠農園様と当社の2社でプロジェクトを進めていきました。鈴田峠農園様からはシェードに適したパッションフルーツとその生育ノウハウ、当社からは制御機器、制御プログラム、監視・分析ツールを提供する、というのがそれぞれの役割です。
ところが、制御するモノは土や植物という、これまでに手掛けたことのない分野のため、とまどうことも多く、農業の本を数多く読み込んだり、鈴田峠農園様からノウハウを伝授いただいたりと今までにない取り組みに苦労する日々でした。その一方で、知らない世界をのぞき見るワクワク感を持ったメンバーも数多く、モチベーションが下がることはありませんでした。
そして、2020年度1回目のPoCは「暑い日に子どもたちが屋外で遊べる環境をつくる」「CO2を吸収して温暖化防止に役立てる」などSDGsに資する施策を強く意識し、学校や幼稚園、動物園といった子どもが集まりやすく長時間過ごす施設を中心に設置を提案していきました。
しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症が拡大を始めた年で、一つの場所に多くの人を集めることが避けられたため、提案・交渉の末せっかく決まったPoCが中止に追い込まれたものもありました。それでも鈴田峠農園の當麻謙二代表や当社事戦グループメンバーが、粘り強く交渉を重ねた結果、愛知県名古屋市のなごのキャンパス様、および当社構内の2カ所でPoCを実施できることになりました。
PoCに際しては、パッションフルーツは季節性の植物という性質上、シェードを夏までに設置しておかなければならないうえ、2社だけでは施設建設やIGSを活用したサービス提供のノウハウがない点も課題でした。しかし、実施時期が夏に限られるにもかかわらず新型コロナウイルスの感染状況をぎりぎりまで見極めていたため、プロジェクトが実際に進み始めたのは5月に入ってから。スケジュール設定やシステム設計、制御プログラム作成、工事業者・工事内容の決定、サービスに関わるスタートアップ探し。また、工期も短くしなければならないという二重苦、三重苦の中でプロジェクトは進行していきました。
メンバーの情熱が実を結ぶ。
計700個超のパッションフルーツ
シェードの設置工事は当社社員が率先して土に触れ、予定通り3日間で完了。完成当初、屋根にようやく葉がかかる程度であったパッションフルーツの苗が、本当に夏までに葉を茂らせ、緑の屋根ができあがるのか不安に思うメンバーもいる中で、1ヵ月が経ち――。
自動制御のかん水のみで葉はしっかり成長し、屋根の役割を果たすまでに育ちました。パッションフルーツの実は初夏と秋の2回収穫でき、その数は700個を超えます。関係者からの紹介で、カフェYoake様にて、パッションフルーツを使った特別メニューも提供されました。また、サービス関連のスタートアップとともにIGSを活用した夏休みの小学生向け教育イベントを実施したところ、20名を超える応募があり、大盛況でした。「プログラミングが日常生活のどういった部分で使われているのかわかった」「五感を使って学べる機会は少ないのでとても有意義なイベントだった」といったコメントも寄せられました。
2020年度のPoCではIGSがFA機器とパッションフルーツの苗で実現できることを確認したほか、気温への影響や上記のイベントとのコラボレーションに関する検証も行い、一定の成果を得ました。
その一方で、鈴田峠農園様と当社の2社のみでは施設建設のノウハウがないため、メンテナンスが適切に行えなかったほか、シェードの架台の強度にも課題が残りました。架台に取り付けたミストのノズルが外れて噴水のように水が漏れてしまい、毎日のように修理で訪問。シェード下の空間も狭く圧迫感があり、葉の上にミストの水分がたまると水滴がぽたぽた落ちてくるなど、居心地のよい空間とは言い難いものでした。加えて架台の外観も、人々が集まる場所に置くものとしては少々無骨なデザインになっていたのです。
こうした結果を踏まえ、2022年度に予定した次回のPoCには建設業から青木あすなろ建設様に協力していただくこととし、さらに社内においても営業担当や統合デザイン研究所、先端技術総合研究所と 連携しながら課題の克服に取り組んでいきます。
「屋外に日陰をつくる」から「人を集める」ソリューションへ進化。
そして、目にも涼やかな快適シェード に改良し、2回目のPoC実施へ
2回目となる2022年度のPoCを前に、コンセプトとIGS設置の提案先を再検討しました。より多くの人にIGSというソリューションを届けるため2020年度の反省も踏まえ、コンセプトについてはこれまでの「屋外に日陰をつくるソリューション」から「人を集めるソリューション」に。また、この価値を役立てていただけるよう、提案先は、学校や幼稚園、動物園から都市開発に関わる不動産デベロッパーへと変更しました。その結果、京都府精華町のけいはんな記念公園様と、大阪府大阪市のうめきた外庭SQUARE様の2カ所にIGSを設置することとなりました。
設置に向けては、まず課題の一つであった架台デザインを改良。新パートナーである青木あすなろ建設様、当社の統合デザイン研究所とのアイデア検討や協議を経て、人が集まる場としてふさわしい都会的で機能的なデザインへと生まれ変わりました。また架台の強度についても、青木あすなろ建設様に強度計算と、安全性を確保したうえでの簡単設置・簡単撤去を実現する構造設計を実施していただきました。
加えて2022年度のPoCでは、パッションフルーツの生育度合いの定量化や、人の誘因性という視点で来訪者への効果も検証することとしました。そのためIGSにAIカメラを追加で取り付け、来訪者カウントやパッションフルーツの花・実のカウント、屋根のカバー率計測などの機能を実装しました。
パッションフルーツの生育時期を考慮すると6月にはPoCを始める必要があります。年度開始から2カ月で準備を終え、設置を終えるため、事戦グループではシステム検討やサービスパートナー探し、機器の手配などに奔走します。
日焼けしながら短期決戦。
度重なる「想定外」にも新メンバーで乗り切る
IGSをギリギリ6月下旬の設置には間に合わせるため、関係者間で毎日のように意識合わせを行い、次々と出てくる課題にも多くの人たちの協力をあおいで解決・決定していきました。設置工事時には、事戦グループメンバーも現地に1週間泊まり込み、青木あすなろ建設様や鈴田峠農園様のほか水道工事、電気工事、ミスト、ネットワークなど各業者の方々と力を合わせて作業に臨みました。この工事は工程が天候に左右されるため雨天を心配していましたが、実際は記録的な猛暑。日焼けで真っ黒になり、作業後に近くの温泉に行ったら、日焼けが痛すぎて地獄を味わうことになったとメンバーの一人は当時を振り返ります。
そうした努力が実を結び、けいはんな記念公園様への設置は無事6月下旬に完了しましたが、肝心のパッションフルーツはPoC開始から2カ月を経てもなかなか育ちません。これは通常よりも時期が少し遅かったことが要因でした。しかし、暑い盛りも過ぎようとする頃から急成長。9月下旬には花も実も鈴なりになって、700個ほどの実を収穫できるほどになりました。
また、この裏側では、初めての試みということもあり、散水栓の不調、草刈り時の配管の誤切断、高温による機器の誤動作で水漏れが多発するなど、思いもよらぬトラブルも次々と発生していました。IGSから送られてくる異常時のアラートメールは、装置が正常に機能していることの証であるものの、メンバーにとっては次々と向き合わなければならないミッションが送られてくるようなもの。設置後も1日として気の抜けない日々が続いたのです。
一方で、多くの公園利用者がIGSに興味を持ち、事戦グループメンバーに盛んに話しかけてきてくれた、といううれしい経験もありました。あるメンバーは「エンドユーザと直接話せることがとても楽しく、この取り組みで一番の励みになりました」と一言。
トラブル発生時の対応では、名古屋から水道業者と共にすぐさま現地入りするなどの迅速さが、公園管理者様から評価いただいたこともありました。
片や、うめきた外庭SQUARE様でのPoCは他のイベントとの関係で、設置が8月下旬にずれ込んだためパッションフルーツはほとんど育たず、シェードの葉もなかなか茂りませんでした。ただ、けいはんな記念公園様でのPoCから得たノウハウを改善に活かすことができ、水回りのトラブルなどもほぼ発生しませんでした。
結果的に2022年度は、パートナーに加えてお客様とも議論しながら進めることで、都会的な洗練されたシェード作りを実現。想定通りに茂らせることはできなかったものの、設置期間の延長をお客様から提案いただくなど、喜ばしい結果となりました。
撤去した枝葉をアップサイクル。
カーボンニュートラルに向けた次なる挑戦は始まっている
背景や文化に違いがある異業種とのコラボレーションは、三菱電機としても、ここ数年の取り組みです。その中で、全く知らなかった農業や植物のことを勉強したり、これまで付き合いのなかった業種の方々と一緒に取り組んだりしたことには苦労や戸惑いがあったものの、パートナー3社でIGSをより良く作り上げたいとの思いを共有したことで、やり遂げることができました。中には苦労があった分、パッションフルーツへの愛着が湧き、PoC後に個人的に育てているメンバーもいます。
そして2年度のPoCを終えた現在、すでに次なる挑戦が始まっています。撤去したパッションフルーツの枝葉を使い、セルロースナノファイバー混成プラスチックの開発・製造に取り組んでいます。植物を廃棄せずアップサイクルすることで価値を高めながら循環させることができるうえ、CO2を固定して再利用できるため、カーボンニュートラルへの貢献を期待しています。
また当社先端技術総合研究所と共に、植物の種類に応じて土壌水分量を調整できるかん水制御方式の開発にも取り組んでいます。さまざまな技術を活用することで植物の成長をより促進させ、緑豊かで過ごしやすい快適な空間づくりに貢献できると考え、今後も当社の技術やパートナーの技術を積極的に導入していきます。
2023年度はまた新たなお客様と議論し、これまでとは異なるコンセプトでPoCを実施する予定です。この三菱電機が取り組むオープンイノベーションに、よりよい未来に向けた果敢な挑戦の「今後」に注目いただけると幸いです。