提案は通らなかった――。2009年、ある太陽電池製造装置メーカーの搬送システムリニューアルのコンペで、ACサーボを使った提案を行った三菱電機は勝つことができなかった。しかしコンペに負けたという事実以上に衝撃的だったのは、その敗因だった。顧客が採用したのは、三菱電機の製品ラインアップにない「ステッピングモータ」を使ったものだったからだ。
当時、三菱電機は、モータによる位置決めに2つのソリューションを用意していた。1つは高精度の位置決めが可能なACサーボ、もう1つは誘導モータとインバータの組み合わせによる簡易的な位置決めだ。両者の守備範囲は広く、位置決めのニーズは十分カバーできていた。
しかしやがてその両者の隙間に、ある機器が割って入るようになる。一定角度ずつ回転するステッピングモータだ。ACサーボよりも構造が単純でコストも安く、誘導モータをインバータで制御するよりも位置決め精度の高いステッピングモータは、隙間から着実に勢力を広げていた。そしてついにACサーボの市場まで脅かすようになったのである。ACサーボではトップシェアを誇るがステッピングモータを製品として持たない三菱電機にとって、とても看過できるものではなかった。