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情熱ボイス【グローバルPMモータ篇】第2回 「何が正解なのか分からなくなった」情熱ボイス【グローバルPMモータ篇】第2回 「何が正解なのか分からなくなった」

開発は長い迷走期間に 開発は長い迷走期間に

ACサーボの立場から名古屋製作所が開発したMM-GKRと、誘導モータの立場からMFKが開発したS-PM。センサレスサーボを目指した2つのモータから、ステッピングモータに対抗しうるモータを開発するうえでの最大の課題は「インバータとモータの最適な組み合わせ」ということが分かった。

新しいセンサレスサーボのモータは誘導モータ同様、インバータで制御する。しかしながらインバータはサーボアンプほど制御応答が高くない。S-PMは誘導モータをベースに設計された表面貼付形永久磁石モータ(SPM)で、モータ慣性モーメントが大きい反面、制御応答が高くないインバータで制御しても速度が安定する。ただし、突極比が小さいため、センサレスでの位置制御は難しい。S-PMより小型のMM-GKRはサーボモータをベースに設計された埋込形永久磁石モータ(IPM)で、サーボモータ同様、モータ慣性モーメントが非常に小さく機敏な動作が可能であるが、インバータ制御では制御応答が低いため、速度ムラの抑制が難しい。反面、突極比が大きいため、センサレスでも位置制御が可能である。速度制御と位置制御、両者の高い精度を十分に満たさなくては、ステッピングモータに対抗し得ないため、インバータの制御応答とモータサイズ(慣性モーメント)のバランスを取ることが必要だった。

プロジェクト開始から5カ月後の2012年8月、バランスの取れるモータの実現方法は2つの候補に絞られた。突極形と呼ばれるコアを採用したモータと、永久磁石を縦方向に埋め込んだ縦埋込形モータの2つだ。前者の突極形はロータコアに複数の突起を設け、その突起の間を埋めるように永久磁石を貼り付けた構造のモータであり、ロータコアの突起部と磁石部のインダクタンスの違い(突極比)を回転位置の推定に利用する。後者は永久磁石を縦に埋め込むことで磁石の表面積を増やし、大きな磁力を確保するするとともにロータコアと磁石部のインダクタンスの違い(突極比)を回転位置の推定に利用する手法だ。2つのモータに共通するコンセプトは、モータの磁石にレアアースを含有した高性能磁石ではなく、入手性が良く安価なフェライト磁石を使用することであった。
どちらを選択するかは、実験機を作って評価を決めることになった。

しかし「縦埋込形は性能以前に作りにくい。最初から突極形になるだろうと思っていた」

と、実験機の製作を担当したMFKの技術部GM設計課主席の谷川毅は打ち明ける。ただそれでも実験機による比較は必要だ。ロータやステータは0.5mm厚の電磁鋼板を多数重ねて作るが、実験機ではその板をワイヤカットで1枚ずつ切って作らなくてはならない。突極形か縦埋込形か、谷川には結果は見えているように思えたが、確実に検証するためにはその面倒な作業を省くわけにいかなかった。

2013年7月、案の定、モータの構成は突極形に決まった。性能では大差なかったものの、谷川の予想どおり製造性の差異が大きかったのだ。センサレスを目指すモータの実現方法が決まると、次はモータの出力ごとの詳細設計だ。サイズ別に5種類の試作機を作り、それぞれセンサレスが本当に可能かを検証するステージに入ったが、ここから開発は長い迷走期間に入る。

「センサがあれば解決できるのに

何が正解なのか分からなくなった」と綿野は言う。

センサの代わりにモータの回転位置でインダクタンスが異なる性質(突極性)をモータの位置決めに使うという基本方針は決まっている。それが可能なことも検証済みだ。しかし業界にいまだ存在しない手法のため、何をどう改善すれば精度を「センサによらないサーボ」といえるレベルまで高められるのか、見当がつかないのである。

実験段階で試作したモデルは1回転約100パルス、すなわち1回転360度を100段階で制御するレベルだった。プロジェクトチームはこれを200~300パルスまで高めることを目標とした。当時、簡易的なセンサで行う位置決めの精度がこのレベルだったからだ。その精度をセンサ抜きで実現できれば十分競争力を持つものになるだろう。

ところがこの精度向上がなかなか進まない。精度が出ない原因はモータなのかインバータなのか、明確に切り分けられないのだ。複雑な分析を行って原因の切り分けができても、それをどちらの改善で対策するかの判断も難しい。どちらかに決まったとしても、一度の改善で十分な効果が出ることは少なく、試行錯誤を繰り返す必要がある。

「センサがあれば・・・」とプロジェクトチームの1人である福岡弘淳は嘆いた。

名古屋製作所でインバータのソフトウエア開発に携わる福岡は、センサレスサーボのインバータ側の開発者としてプロジェクトに加わっている。福岡は、思うように精度が上がらない理由の一つはモータの製造バラツキにあることは想像できていた。製品である以上、微妙なバラツキは避けられない。モータの巻線抵抗や誘起電圧、加工や組立精度のわずかなバラツキがモータの動きを微妙に狂わすことさえある。それを抑えるのはインバータの役割なのだが、センサがないためバラツキの程度が分からないのだ。突極形のコアではそこまで知ることはできない。

モータで対応するのかインバータで対応するのか、両者の開発者の議論は時に険悪になることもあったという。進まない事態を打開するために、三菱電機の研究開発部門である先端技術総合研究所(以降、先端総研)の技術者がプロジェクトチームに加わることとなった。高度な知見を持つ先端総研が客観的な立場から分析と考察を行えば、原因の絞り込みと対策は進むだろう。

その期待通り、複雑に絡んだ原因はようやくほぐれ始め、モータのバラツキ改善とバラツキをインバータで補正する制御を追加することで目標とする精度に近づくようになった。出力0.2kWから7.5kWまで5種類の仮作機での評価を通して、目標実現の見通しが立ったのは2017年12月。精度の向上だけで4年半が経過していた。

ゴールが遠のいていく

年が明けて2018年1月。新しいセンサレスサーボについて製品化に向けた開発方針を機関決定する「方針会議」が開かれた。開発プロジェクトの中で大きなマイルストーンと言えるこの会議を、綿野たちが作った仮作機は無事通過し、次のステージに向かうことが決まった。

この会議の中で確認が行われたことの一つは、モータの効率クラスだった。モータには定格出力ごとの効率によって、効率の低い「IE1」から最も効率の高い「IE5」までのクラス分けがある。新しいセンサレスサーボはIE4を目標としていた。2018年1月の方針会議当時は高効率と呼ばれるモータの多くがIE3だったため、一つ上のIE4で十分と見ており、実際に全機種IE4をクリアしていたことで方針会議は通過したのである。

2018年12月、設計試作機を評価し量産投資を判断する「現品会議」は、製品化を予定している9機種のうち0.1~0.75kWの4機種が通過。先行して量産試作に移行することとなった。この時、これら4機種はモータの効率クラスが目標のIE4を大きく上回り、IE5もクリアできることが確定した。IE4達成に満足することなく、方針会議後もモータ設計の見直しなどでさらに上の効率を目指した結果だ。プロジェクトチームは目標以上の成果を出せた満足感と、ゴールに着実に向かっている達成感を得ていた。

一方、現品会議を通過できなかった1.5kW以上の5機種は、位置決め精度などの問題を指摘されていた。継続的な改善を求められることになったが、それは綿野たちもある程度予想はしていた。予想していなかったのは、効率クラスに関するMFK幹部からの指摘である。

「こっちはIE4なのか」

IE5を満たす0.75kW以下の機種に対し、1.5kW以上の機種はIE4のままだった。もちろんそれでも目標は十分達成している。それは先の方針会議でも了承済みだ。しかし先行して現品会議を通過した0.75kW以下のIE5に対し、IE4は見劣りしているように思われたのだろう。

2019年2月、1.5kWと2.2kWが改善の結果、現品会議を通過した。この時この2機種は前年の会議で指摘された位置精度などの問題の解決に加えて、効率クラスがIE5に到達したことが確認された。IE5は現品会議通過の条件ではなかったが、改善により結果的にクリアできていた。

残すは3.7kW、5.5kW、7.5kWの3機種だ。いずれも位置決め精度などの問題は解決のメドがついている。効率クラスはIE4のままだが、目標は達成できているのだから大丈夫だろう。しかしIE5をクリアした機種が過半数を占めるようになり、幹部の関心は効率クラスの方にさらに向いていく。
綿野たちは嫌な予感がしていた。その予感は、後日幹部からの指示で的中する。

「全機種、IE5を目指すように」近づいていたはずのゴールは、突然遠のいてしまった。

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