Factory Automation

情熱ボイス

情熱ボイス|形彫放電加工機SV-Pシリーズ ~半導体パッケージオプション~ 篇 「ダメ出し」に屈しない強い技術者魂が生み出した半導体市場への新機軸 第2回 ダメ出しの中から見えてきた光明

もはや一刻の猶予もない・・・ もはや一刻の猶予もない・・・

半導体は「産業のコメ」とも呼ばれる。産業全体の基盤ともいえる重要な部品だからだ。スマートフォンなどの情報機器やインターネット対応が進む家電、電動化が進む自動車などを背景に、半導体市場は活況を呈している。さらに今では生成AIのブームも加わり、大量で高速のデータ処理をするのに必要不可欠な半導体は今後も拡大が続くことが見込まれている。

しかし、この半導体製造の分野で三菱電機のFA製品は相当数採用されているが、放電加工機となると、ほとんど採用実績がなかった。だからこそ足がかりをつくるために喉から手が出るほど欲しかったのが、半導体封止金型製造の案件だったのである。逃した魚は大きかった。

名古屋製作所に返されてきた形彫放電加工機を前に、
「ここで終わるわけにはいかない」という思いが
佐々木たちにこみ上げてきた。
改良を続けていけば半導体市場に食い込めるチャンスは必ず来る。そう信じて開発を継続することにした。

門前払いを食らう

そのチャンスは意外と早く訪れた。2021年7月、半導体封止金型のファブレスメーカーである株式会社CAPABLEと技術懇談会を持つことになったのだ。技術懇談会は三菱電機と顧客企業が先端技術を持ち寄り、新たな協業の可能性を模索するコラボレーションの場である。

CAPABLEは、大手半導体製造装置メーカーの幹部や技術者が2012年にスピンアウトする形で設立され、半導体製造に使用する封止金型を設計している。同社の大きな特徴は、自前の製造設備を持たず、設計した金型の製造を外部に委託するファブレスメーカーという点である。国内の多くの加工メーカーをパートナーとして組織しており、自社で設計した金型をパートナーに製造してもらい、半導体メーカーに提供するというビジネスモデルを取っている。

CAPABLEのロゴ画像

CAPABLEは日本の金型産業の活性化を狙い設立されたファブレスメーカー。日本国内の金型メーカーに製造委託し、CAPABLEブランドで世界の主要メーカー(半導体・LED・電子部品)に製品供給・保証するビジネスモデルは、日本初である。

  • 株式会社CAPABLE http://capableeng.com/
  • 数多くの金型メーカーに製造委託している同社は、委託先の加工機選定に大きな影響力を持っているに違いない。その同社と開催する技術懇談会は、絶好のチャンスといえた。さっそく彦坂は、半導体の金型製造用の形彫放電加工機を開発していることを紹介したが、CAPABLEの担当者は悪びれる様子もなく本音ベースの評価を返してきた。

    「半導体封止金型製造では、
    各社の放電加工機の中で三菱電機は最下位ですからねえ」。

    彦坂はぐうの音も出なかった。実績がほとんどないに等しいのは確かだが、それにしてもそんなに評価が低いのか。彦坂は後日、試しにモニターでも利用した形彫放電加工機で加工した封止金型をCAPABLEに持ち込んだ。それなりに良くできていると思っていたが、同社の担当者はその金型を見るなり、NGの判定を下した。粗さにムラがあり、検査の測定をするまでもないと言われたという。

    あまりの評価に彦坂は落胆した。しかしこれであきらめていては、ここまでの開発が無駄になってしまう。今後も成長が続く半導体市場には二度と参入できなくなるだろう。

    「どこまで性能を出せるかはやってみなければ分からない。
    やれるだけのことはやってみよう」。

    そう考えた彦坂は、社内の開発意思決定機関である方針会議に半導体市場向けの形彫放電加工機の開発を提案し、幹部の了承を得た。同時に佐々木はCAPABLEに提案する新しいサンプルの条件出しに着手し、再チャレンジの機会をうかがうことにした。

    加工時間を半分にしてくれ」

    門前払いから半年後の2022年1月、新たなサンプルが出来上がった。CAPABLEが求める面質も実現できており、今度はいい評価をもらえるのではないか。実際、CAPABLEの担当者は新しいサンプルを見て面質については高評価を与えてくれた。

    しかしその一方で「加工に時間が掛かりすぎる」と生産性の問題を指摘した。

    「これではパートナーが投資してくれないでしょう。加工時間を半分にしてもらえますか」。

    CAPABLEが加工時間にこだわるのには理由があった。CAPABLEを設立した社長の河原洋逸氏が以前社長を務めていた大手半導体製造装置メーカーでは、自社で使う金型のほとんどを内製していた。半導体市場は景気にサイクルがあるため繁閑の差が激しく、繁忙期には内製が追いつかないため本音では金型も外注したい。しかし外注では金型の品質が保てないため、内製にこだわらざるを得ないのだ。その結果、心ならずも国内の金型産業が弱っていくのを目の当たりにしていたという。外注先が作る金型の品質を担保する形で金型製造のサービスを提供すれば、半導体メーカーの満足度を高めながら、日本の金型産業を復活させることができるのではないか。その想いから、河原氏はファブレスの封止金型メーカーCAPABLEを設立したのだ。

    CAPABLEが品質を担保するためには、パートナーである外注先個々の技術力に依存した金型製造は避けたい。つまり現場での改善を前提としたものづくりではなく、加工機自体が品質や生産性で十分完成度の高いターンキーのソリューションである必要がある。それが面質だけでなく加工時間にも最初から高いレベルを三菱電機に要求した理由だった。

    三菱電機の関係者たちも、河原氏らCAPABLE創業メンバーの想いは折に触れて聞いていた。その想いと期待に応えるためには、加工時間を半分という難題を何としてもクリアしなくてはならない。面質の問題がほぼクリアできたことで、今後注力すべきポイントは限定できたともいえる。彦坂らは加工時間の改善を約束し、再びチャレンジすることを約束した。

    加工時間の短縮を表す画像

    課題となった加工時間は5カ月で約1/2短縮を目標に試行錯誤を重ねた

    既存顧客にも影響が及び始める

    半導体封止金型対応の形彫放電加工機の開発は、わずかながら光明が見えてきた。モニター利用先からの加工機返却以来、重たい空気が漂っていた開発現場に明るさが戻ってきたが、そこに雰囲気を一転させる知らせが飛び込んできた。長らく三菱電機の放電加工機を使ってきたユーザーが、形彫放電加工機を他社に乗り換えたというのである。

    同社はワイヤ、形彫とも三菱電機の放電加工機を継続的に使っており、良好な関係が築けていたはずだった。それが突然のリプレースというのだから衝撃を受けるのは当然だ。それも理由は「半導体封止金型の製造のため」という。半導体封止金型への対応の差が、新規顧客だけでなく既存顧客にも影響を及ぼし始めていることに、開発現場は大きな危機感をいだいた。

    ユーザーとの関係は良好なのにリプレースされたのならば、責任は営業ではなく100%開発だ。彦坂ら開発メンバーに、さらなる大きなプレッシャーがかかった。彦坂はそのユーザーのもとに飛び、リプレースに至った経緯と、どんなものづくりを行うつもりなのかをヒアリングすることにした。良好な関係もあってそのユーザーはいろいろなことを教えてくれる。彦坂はユーザーに感謝しながら、開発のカギはやはり電源の改良にあることを再認識した。

    CAPABLEからも再度のサンプル提供を急かされている。もはや一刻の猶予もない。彦坂は名古屋製作所に戻って開発のスピードアップに挑む。

    形彫放電加工機SV-Pシリーズ 半導体パッケージ

    5G、BEV普及に伴い、半導体需要は今後も増加が見込まれます。
    このような市場背景の中、半導体製造に不可欠な半導体封止金型生産に特化した「半導体パッケージ仕様」オプションを開発!

    アンケート

    Q1今回の記事に興味関心を持ちましたか?

    ※必須項目です。選択してください。

    Q2Q1で答えた理由を教えてください。また次回題材でご希望があれば教えてください。※なお、ご質問に対する回答はいたしかねますのであらかじめご了承願います。

    ご回答いただきありがとうございました

    一覧に戻る