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情熱ボイス

情熱ボイス|形彫放電加工機SV-Pシリーズ ~半導体パッケージオプション~ 篇 「ダメ出し」に屈しない強い技術者魂が生み出した半導体市場への新機軸 第3回 日本の金型産業復活に寄与するために

やりましょう、徹底的に やりましょう、徹底的に

「いいじゃないですか!
これならOKですよ」。

2022年6月、技術懇談会も含めると3度目となったサンプル提供。彦坂が開発した電源システムと中川が開発した軸制御システムを搭載した形彫放電加工機が、ようやくCAPABLEから認められる半導体封止金型を生み出すことに成功したのだ。回路を見直し、放電するエネルギーを増量した新しい電源が功を奏した。

CAPABLEのお墨付きを得たことで、半導体封止金型の製造に対応した形彫放電加工機の開発は一気に前進した。三菱電機は形彫放電加工機「SV-Pシリーズ」用のオプション「半導体パッケージ」として製品化することにし、まず2022年11月にプロトタイプのリリースを決定。細かい仕様の策定を始めることにしたが、仕様の中で特に重要な要素となったのが「面粗さをどこまでカバーするか」という点だった。

リリース時期を遅らせてでも

CAPABLEからの合格通知と前後して開発メンバーに新たに加わった足立は、仕様策定のためにCAPABLE含め潜在ユーザーのヒアリングに回っていた。ポイントの一つは、やはり「面粗さ」だった。半導体封止金型の表面粗さパターンを何種類準備するのか、そのニーズを見極める必要があるのだ。

必要な粗さは、半導体のサイズや実装形式ごとに変わってくるため、それぞれ数種類用意しなくてはユーザーのニーズをカバーできない。当初開発チームでは、2~4種類ほどの粗さの用意を想定していたが、足立はヒアリングに回っているうちに、

「それだけでは足りないのではないか」という意識を持ち始めていた。
開発チームが想定していた以上に、小さな粗さを求める声が大きいのである

もっとも粗さの種類は、必ずしも加工機がすべて最初から用意しておく必要はない。最低限の粗さだけ用意しておき、後はユーザー側の技術者に調整を任せるということは可能だ。しかし、それができるかどうかは技術者の技術次第である。製造委託先の加工品質を担保することでビジネスを成り立たせているCAPABLEは、そうした現場頼みの使われ方は避けたいはずだ。必要な粗さの種類は、すべてパラメータとしてあらかじめ加工機に設定済みであることが望ましい。

足立はヒアリングの結果を持って開発チームに
「面粗さの対象範囲を広げる必要があります」と提案した。
2~4種類だった粗さを、6~7種類にまで拡大すべきだと強調する。中川ら開発チームは足立の提案に納得したが、すぐには受け入れが難しい事情があった。開発計画の見直しが必要だったからだ。開発計画書は既に社内でオーソライズされていた。2022年11月に製品をリリースするという計画もそれを前提としている。足立の提案を受け入れるなら、そのスケジュール自体を白紙に戻さなくてはならない。

しかし開発チームに迷いはなかった。
「やりましょう、徹底的に」。
三菱電機は後発の立場なのだ。必要と思ったことは何でも取り入れていかないと、先行する競合を追い抜くことはできないだろう。追い抜くためなら、いったん決めたリリースを遅らせることぐらい取るに足らないことだ。

2023年1月、面粗さの対象範囲を拡大するために、製品のリリース時期を2023年夏以降に遅らせることが正式決定された。遅らせることに対し、関係者からは不安視する向きもあったが、それを押し切って、三菱電機ならではの機能の追求にこだわった。

ただの穴開きパイプが解決

現場技術者頼みではなく、人に依存しない形彫放電加工機を作る。その大きな目標の中で面粗さの対象範囲拡大は行われたが、それ以外にも取り組んできたテーマがあった。それが加工液の循環方法だった。

放電加工では加工の際に出たクズを適切に排出しないと、クズに再び放電が起きて加工面にシミのようなムラが出ることがある。そこで放電加工機ではワークを加工液で満たされた槽に浸すとともに、加工液をノズルで噴射することでクズを洗い流している。しかしこのノズルの位置や角度はワークごとに調整する必要があり、その作業は人に依存するため、これまでは適切に排出されずに不良品が出ることもあった。

その問題を解決させたのは、意外にも「単なる穴開きパイプ」だった。パイプに加工液を流し、開けられた穴からシャワーのように加工液を噴射することで、クズ排出に十分な流れを槽の中につくり出せるということが分かった。

「ただの穴開きパイプで解決できるとは思っていなかった」と佐々木は言う。

穴開きパイプを設置した写真

槽背面に穴あきパイプを設置。そこからシャワーのように加工液を噴射することで、槽内全体に水流をつくり、クズを排出

三菱電機の「本気度」が業界を動かした

加工メーカーの技術力に依存することなく、高品質な半導体封止金型を作ることができる。そのコンセプトが実現に近づくにつれて大きな関心を持ち始めたのが、他ならぬCAPABLEだった。最初は検査もしてくれなかったCAPABLEが、三菱電機にコンタクトし始めたのである。

2022年12月、三菱電機で放電加工機の事業を統括する小薗に対し、CAPABLEは金型メーカーの技術者向け研修施設「トレーニングセンター」の開設計画を明らかにした。同時にそのセンターに、三菱電機が開発中の半導体パッケージを搭載した形彫放電加工機を導入したいという。サンプルの門前払いから1年半、3度目のサンプル提出でやっと合格を得られてからまだ半年しか経っていない。あまりの急展開に小薗も驚いた。

CAPABLEとの関係強化はそれからも続いた。2023年2月には、業界団体である一般社団法人日本金型工業会が主催するセミナーで、CAPABLEと三菱電機が共同で講演を行うことになった。金型メーカーにとってCAPABLEは、日本の金型産業の将来に新たな道筋をつけようとしている存在だ。三菱電機がCAPABLEと共同で講演をすることのインパクトは大きく、講演終了後から半導体製造に乗り出したい加工業者からの多くの引き合いを受けるようになったという。

CAPABLE河原社長の講演の様子の写真

CAPABLEと合同で開催したセミナー「半導体産業の動向と三菱電機放電加工機の取り組みについて」
(写真はCAPABLE河原社長の講演の様子)

CAPABLEがそれほど三菱電機の加工機に入れ込むようになったのは、その取り組み姿勢を見て、三菱電機の「本気度」を感じ取ったからのようだ。

CAPABLE社長の河原氏は、
「半導体では三菱電機は後発も後発。
半導体製造には関心がないのだろうと思っていたが、
まさか2年足らずで我々が求めていたものを作ってくれるとは。
これには驚きました」
と話す。

河原氏が言う「求めていたもの」とは、金型メーカーが高品質な半導体封止金型を、技術者のレベルに依存することなく製造できる仕組みである。形彫放電加工機に高度に習熟しているメーカーであれば、CAPABLEの支援に寄らずとも自力で半導体封止金型製造に乗り出せるだろう。しかし実際には国内でそうしたメーカーは数少ない。CAPABLEが目指しているのは、半導体メーカーが求める金型を製造できるパートナーを増やし、日本の金型産業の底上げを図ることだ。プリセットされたパラメータの設定だけで、あらゆる面粗さと金型形状に対応できる三菱電機の加工機は、まさにCAPABLEと同じ方向を見ていると同社は評価したのである。

株式会社CAPABLE 代表取締役社長

河原 洋逸
(かわはら よういち)

大阪府出身。
大学卒業後、丸紅株式会社に入社。
電子機器やIT部門の長を長年努めながら後年は10社にも及ぶ社外取締役を兼務。
2003年にTOWA株式会社へ。2006年からは代表取締役社長として、同社の再建・再生、車載用半導体封止分野の開拓などをけん引する。
2012年に株式会社CAPABLEを設立し、代表取締役社長に就任。現在に至る。

後工程を国内に残すために

2023年11月、CAPABLEのトレーニングセンターが竣工した。そこには前月出荷開始したばかりの半導体パッケージを搭載したSV12Pが2台導入されている。トレーニングセンターではパートナーの金型メーカーの技術者に向けた講習が行われる。その講師となるCAPABL技術者への加工指導は、足立らが務めることになる。

CAPABLEとの協業を担当した小薗は、
「ここで学んだ技術者が増えていくことで、
今後は当社のようなプリセットの加工機が主役になるだろうと期待を込める。

トレーニングセンターの写真

2023年11月に竣工したトレーニングセンター。三菱電機の形彫放電加工機半導体パッケージオプション搭載のSV12Pが2台導入されている。

日本国内では熊本県で台湾TSMCの工場が竣工し、北海道ではラピダスの工場建設計画が明らかになるなど、次世代半導体の製造をめぐる動きが活発だ。

「それら前工程を担う大型の工場からは今後、チップが大量に生産されてくる。
その大量のチップを受け入れられる後工程を確立することが、
国内の製造業の空洞化を防ぐために必要だ」
とCAPABLE社長の河原氏は強調する。

河原氏の熱意に賛同し、共に突き進んでいく情熱をもって開発された三菱電機の形彫放電加工機は、半導体封止金型の製造を通して日本の産業構造の維持発展にも寄与しているのだ。

SEMICONDUCTOR TECHNOLOGYの文字が記されている写真

半導体パッケージオプションを搭載する形彫放電加工機SV-Pシリーズ本体の前面には、その強い想いが込められた【 SEMICONDUCTOR TECHNOLOGY 】の文字が記されている

形彫放電加工機SV-Pシリーズ 半導体パッケージ

5G、BEV普及に伴い、半導体需要は今後も増加が見込まれます。
このような市場背景の中、半導体製造に不可欠な半導体封止金型生産に特化した「半導体パッケージ仕様」オプションを開発!

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