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ビジネスコラム

宇津木妙子氏真摯に、真剣に、一人ひとりと向き合いながら。

2024年3月公開【全4回】

第1回 人を伸ばすには「個性」の把握から

──宇津木さんとソフトボールとの出会いについてお聞かせいただけますか?

 私は5人きょうだいの末っ子なのですが、母からいつも兄や姉と比較されていたんです。「お兄さんやお姉さんは勉強ができるのに、あなたはどうしてできないの?」と。たしかに勉強は苦手でしたが、母の対応を見るたびに「私だけ橋の下から拾われてきたんじゃないかしら…」と本気で悩んだほどです(笑)。

 そうした母を納得させるには、スポーツしかないと思っていました。小さいころから駆けっこなら誰にも負けませんでしたし、中学校へ入学したときにはいろいろな運動部から誘いを受けるほどスポーツには自信がありましたので。

 いくつかの部を体験して、最後に行き着いたソフトボール部。その理由は、顧問の先生との出会いでした。「人間は一人ひとり個性がある。だから宇津木はソフトボールで自分の個性を磨いて頂点をめざせ」と、言われたんです。勉強が苦手なことへの劣等感に苛まれていた私にとって、この言葉は大きな勇気になりました。その場で入部を決意し、私のソフトボール人生が始まりました。

川島中学ソフトボール部時代の宇津木さん(中央右端)

──その顧問の先生との出会いがあったからこそ、現在の宇津木さんが存在するというわけですね。

 その先生のすごいところは、短所を指摘するのではなく、徹底して長所をほめていたことです。今でも覚えていますが、あるとき先生から「お前のいいところはどこだ?」と聞かれたんですね。私は少し考えて「元気で、責任感が強くて、負けず嫌いで、面倒見もいいと思います」と答えました。そこでハッと気づいたんです。「そうか、これが私のいいところなんだ」と。自分の長所を考えて言葉にすることで、あらためて自分自身を知ることの大切さを学んだ瞬間です。

 その教えを大切に、指導者になってからは「自分のいいところ、チームメイトのいいところを5つ挙げてごらん」と選手に聞くようにしています。自分の長所、仲間の長所を知ることは、結果的に一人ひとりの個性を伸ばし、強いチームづくりにつながるんです。

──宇津木さんも選手としての特徴や人間性、さらには家族構成までを記した「個人カード」をつくり、選手一人ひとりの把握に努めたそうですね。

 人間ですからそれぞれ強みと弱みがあります。実力はあるのに緊張する場面で力を発揮できない選手がいれば、どんな場面でも物怖じせずにプレーできる選手もいます。それらを把握しておくことで、ピンチのときにはこの選手、チャンスのときにはこの選手というように、それぞれが最も力を発揮できるシーンで活躍するよう差配できるのです。また、選手としてはレギュラーになれない人でも、常に周りを見て状況を分析できる能力があれば「この子は優秀なマネージャーになれるな」と。

 個性や長所を把握しておくことで、一人ひとりに輝ける場所を見つけ出してあげることができます。選手を生かすことで指導者である自分も生かされる。強いチームをつくるために、私はずっとそれを心がけてきました。

──そのほか、指導者として心がけてこられたことはありますか?

 叱るべきときは叱るということです。自分勝手な振る舞いや、自分だけは特別というような素振りを見せたときは容赦しません。それは、グラウンド内だけでなく、普段の生活習慣にも目を光らせていました。

 合宿所の食堂で乱暴に脱ぎ捨てられているスリッパを見つけたら、ポーンと遠くへ投げて叱っていましたね(笑)。ホテルに宿泊するときも、布団はきれいに整えてから部屋を出ているか、ゴミはひとつにまとめているかなど、すべてマネージャーにチェックしてもらっていました。やはり普段の生活での心の乱れはグラウンドに出ますから、そこは徹底していましたね。

──最近は企業でも「部下や後輩を叱るのが難しい」という人がたくさんいるようです。叱り方のアドバイスなどありましたら教えていただけますか?

 その場で叱るということですね。2008年の北京オリンピックの開会式で、女子ソフトボールの代表メンバーがふざけてポールに登ってしまい、運営側から厳重注意を受けるという事件がありました。関係者に話を聞くと、誰も選手たちを叱っていないとのこと。これはマズいと思い、選手たちを厳しく指導しました。

 私が叱る前から、選手たちはこの事件について私が知っていることをわかっていたはずです。「どうしよう…宇津木さんに何か言われるんじゃないかな…」と不安に思っていたことでしょう。そのような心理状況では、練習にも試合にも集中できません。

 それならいっそ「何をやっているんだ!」と一喝されたほうが選手の気持ちも楽になります。ですからそのときは、日本ソフトボール協会の理事として、そして代表チームの元監督として、いち早く叱らなければいけないと。

 仕事でもそうなのではないでしょうか。注意すべきこと、指導すべきことがあったときに「今は忙しいから後にしよう」「明日は大事なプレゼンがあるからやめておこう」では、どんどん叱りにくくなってしまいます。相手のためにも“その場で叱る”ことを心がけることが大切だと思います。

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