ビジネスコラム
宇津木妙子氏真摯に、真剣に、一人ひとりと向き合いながら。
2024年3月公開【全4回】
第3回 適材適所を見極める「目」を養おう
立派な選手である前に、立派な人間であってほしい──スポーツとビジネスとで土俵は異なるものの、その言葉に襟を正した読者も多かったのではないでしょうか。話題はいよいよ「強いチームづくり」の核心へ。リーダーはもちろん、組織の一員として働く、すべてのビジネスパーソン必読です。
──選手を人として育てるだけではなく、監督としては「勝つ」ことも重要なミッションだったかと思います。強いチームをつくるために、普段の練習ではどのような点に注力されていましたか?
勝つためには、選手をやる気にさせなければなりません。では、どうすればやる気にさせられるか。それは「勝つには練習しかない」という単純な答えを示すこと。そのために代表の選手は集まっているんですから。
では、どういう練習が勝利につながるのか。それは、やっぱり「基本」なんです。どんなボールでもバットに当てる、どんなボールでもキャッチするという技術は、基本的な反復練習でしか身につきません。
ただ、反復練習ってみんな嫌いじゃないですか。走り込みなんて好きな人はいませんよ。でも、上野(由岐子選手)※が40歳を過ぎても現役を続けられているのは、毎日誰よりも走っているからです。
そういう辛くて大変な練習は技術面だけでなく、体力や精神力も養ってくれます。心技体、すべてがそろって初めて強くなれるわけですから。私がいつも選手に言っていたのは「相手じゃないよ、まずは自分に勝たないとね」ということでした。苦しさを乗り越えたときが、成長するときですからね。
ビックカメラ女子ソフトボール高崎BEE QUEEN所属(投手)。2004年アテネオリンピックで銅メダル、2008年北京オリンピックで金メダル、2020年東京オリンピックで金メダルを獲得した、日本女子ソフトボール界のレジェンド。
──なにごともやはり「基本」が大切なんですね。では、みんなが苦手とする反復練習に少しでも前向きに取り組めるよう、工夫されていたことはありますか?
地味で退屈な反復練習だからこそ、新鮮な気持ちで取り組めるよう工夫していました。たとえば練習のアップは1時間かけて行っていたのですが、ただ走るだけじゃつまらないですよね。ですからちょっとジグザグに走ってみたり、競争させたりと、日々変化を持たせていました。
みなさんの仕事でも、そのようなちょっとした変化を取り入れてみるのはいかがでしょうか。やる気や集中力の持続、「さあ今日も頑張るぞ!」といったモチベーションの向上にもつながるかもしれません。
──前回「自分の方針をはっきりと伝える」というお話がありましたが、チームとしてのビジョンも具体的に伝えていたのですか?
必ず明確な方針を伝えていました。新年最初のミーティングで「私はこういうチームをつくりたい。エースは誰、キャッチャーは誰、野手は誰々」とレギュラーメンバーを発表しながら「レギュラーに怪我があったりしたときはこうするよ。控えの選手はこういうふうに使うから準備しておいてね」「マネージャーは選手の身体のメンテナンスや普段の生活や仕事のチェックをよろしくね」というように、事細かにその内容を説明していました。
同時に、選手にも具体的な目標を書かせていました。そのように全員が自分の目標を明確化することで緊張感が高まるせいか、怪我をする選手はほとんどいませんでした。風邪をひく選手もほとんどいなかったと思います。もしかすると隠していただけかもしれませんけれどね。風邪をひいていると分かればチームから外されてしまいますから。
──選手のポジションを決めるのも監督の役割とのことですが、どのように見極められていたのでしょうか?
一人ひとりをしっかり見て分析することですね。そのために、リーダーは適材適所を見極める「目」を養わなければいけません。長く代表の監督をやっていると、選手を少し見るだけで「この子は足が速いな」「この子は肩がいいな」という特長だけではなく「ちょっと生意気そうだな」といった性格面までなんとなく分かるようになりました。そのうえで、選手に最適な役割を与える。企業もそうなのではないでしょうか。
同じ仕事を任せるにしても、器用にできる人もいればそうでない人もいる。その仕事を器用にできなかった人も、他の仕事なら上手にできるかもしれない。リーダーは、そういった適材適所の見極めも大切な仕事のはずです。
顔色や声から「今日はちょっと元気がないな」「悩み事でもあるのかな」と気づけるくらいになるまで、一人ひとりをじっくりと見てあげる。私はそのように選手たちと接してきました。
──選手と密に接する中で、心がけていたことはありますか?
心がけていたのは、すべての選手と平等に接するということ。たとえば、ある選手と大切な話をしたいときも全員の選手を呼ぶ。そして、ほかの選手とは雑談でもいいからコミュニケーションを取る。誰かを特別扱いしないことは、チーム全体の士気を上げるうえで絶対に忘れてはいけないことだと思います。
今はスマートフォンで一斉送信できるツールがあるから便利ですよね。私は今、東京国際大学女子ソフトボール部の総監督とビックカメラ女子ソフトボール高崎BEE QUEENのシニアアドバイザーをやらせていただいているのですが、選手にメッセージを送るときはいつも60~70人への一斉送信になってしまいます(笑)。