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ビジネスコラム

宇津木妙子氏真摯に、真剣に、一人ひとりと向き合いながら。

2024年3月公開【全4回】

第4回 覚悟を決めて責任を負う「勇気」を

単純な反復練習だからこそ新鮮に取り組める工夫を──前回のアドバイスは、日々のルーティンワークをもっと楽しむために工夫するきっかけになったのではないでしょうか。最終回は、上司・部下、先輩・後輩の上手な付き合い方にまつわるヒントが満載です。読者へのあたたかいメッセージもお見逃しなく!

──すべての選手と平等に接していたとのことですが、ベテラン選手と若手選手で指導方法をアレンジすることはありましたか?

 基本的にベテランだから若手だからといった区別はしませんが、ベテラン選手には「あなたもそうだったと思うけど、あなたの言動を若い子たちは全部見ているよ。だから言葉や行動に気をつけないと、そのまま同じことをするからね」と伝え、若手には「先輩たちの今があるのは、大変な苦労を乗り越えてきたからなんだよ」と伝えることはありますね。

 よく「最近の若い子は」なんて言葉を聞きますが、ベテランの選手からそういう愚痴が出たときは「下の子の行動が気になることって大事だと思う。それだけ成長したってことだね」と褒めてあげるようにしています。

 大切なのは、言葉の選び方・使い方なのではないでしょうか。さまざまなジェネレーションが混在するチームや組織では、それぞれが理解し納得できるように話してあげることがリーダーの務めだと思います。

──長く指導者を続けられてきた宇津木さんから見て、最近の指導者に思うところなどはありますか?

 スポーツの世界でいえば最近の指導者は大変だと思いますよ。ちょっときつい練習をさせて怪我をさせればパワハラと責められ、言葉づかいにも慎重にならなければいけない状況ですからね。

 でも、だからといってやるべき練習をやらなかったり、選手に伝えるべきことを伝えなかったりすることは指導者の「逃げ」だと思います。選手を勝たせるためなら嫌われ役になってもいい、批判されてもいいくらいの気持ちで取り組まなければ、絶対に結果なんて出ません。

 私が日立高崎の監督に就任した当時、チームの理念、ルール、練習内容などすべて自分で決めて「3年で結果が出なければ辞める」という覚悟と責任を胸に、選手やチームと向き合いました。

──宇津木監督の練習の過酷さはメディアでも報じられていましたね。

 ここでやめたらただの練習で終わるけれど、ここからあと一歩進むことができれば強化になる。そう覚悟を決めて、本当に選手たちが倒れる寸前を見計らいながら練習をしていました。大切なのは、その見極めです。倒れてしまったり怪我をしてしまったりしたら、それは強化につながりませんから。

 ノックをしているとわかるんです。最初から諦めて足を動かしていないのか、本当に限界で足が動かないのかが。ベテランの選手がミスをしたときにはペナルティと称して練習から外し、休憩を与えるなどの工夫もしていました。

──そうした厳しい監督としての役割と同時に、お風呂のエピソードのように選手たちとの“人と人との付き合い”も大切にされてきたのですよね。

 つい先日も選手たちといっしょにカラオケでどんちゃん騒ぎをしてきたところです(笑)。私が率先して派手な衣装を着てマイクを握ったりして。普段グラウンドでは見られない選手たちの顔を見ることができて、お互いにとって素晴らしい時間になりました。

 会社でもみんなで飲みに行ったりカラオケに行ったりすることがあるかと思いますが、上司の方は率先して盛り上げてくださいね。上の人が明るく振る舞って自分を見せてくれないと、下の人たちは自分の素顔を出すことができませんから。

 最近は、そういう場に誘われるのを嫌がる人も多いみたいですが、断られたっていいじゃないですか。先輩や上司から声をかけてみて、嫌だったらべつにいいよと。そんな、ちょっとした勇気が求められる時代なのかもしれませんね。

──現在は世界を股にかけてソフトボールの普及活動に取り組まれています。宇津木さんの今後の目標をお聞かせください。

 2028年のロサンゼルスオリンピックでソフトボールの採用が決まりましたが、もっともっと世界中でソフトボールがメジャーになるよう取り組んでいるところです。

 これまでにアフリカ、ヨーロッパ、東南アジアなどさまざまな国を巡りましたが、接してきた子どもたちから教わることのほうが多いように思います。それは「純粋に楽しむ」というソフトボールの原点です。

教えることから教わることも。ソフトボール教室にて

 これまで監督として、ずっと勝ち負けにこだわってきました。でも、世界各国の子どもたちの姿を見て、忘れかけていたものを思い出させてもらったような気がするんです。これからも、楽しみながら続けていきたいですね。

──最後に、ものづくりの世界で活躍する読者の方々へ応援のメッセージをお願いします。

以前、技能五輪を見に行かせていただいたことがあるのですが、そこで感じたのは「挑戦することの素晴らしさ」でした。その挑戦によって自分自身が磨かれ、それが宝物になる──そんな貴重な経験を、ものづくりを通じて手にしていただけたらなと思います。
とくに日本人はものづくりに長けていますので、これからも製造業に携わる方々で知恵を出し合いながら、より良いものを生み出していただけるよう、お願いしたいと思います。頑張ってください。応援しています!

──猛練習で知られる宇津木妙子さん。なかでも有名なのが、1分間に40本以上放たれるという速射砲のようなノックです。その過酷さは、男子のプロ野球選手も音を上げたといいます。選手の体力もそうですが、驚くべきは宇津木さんの体力。現在もそのスピードは衰えることを知らず、1日で1万本ものノックを打つというイベントが企画されるほど。「毎日エアロバイクを2時間。それと腹筋、背筋、腕立ては欠かさずやっています」という宇津木さん。見た目からも、1953年生まれというプロフィールが信じられないほどです。
今回のインタビューを通じて感じたのは“妥協を許さない”厳しさ。選手に対する姿勢はもちろん、それにも増して自分に対してどこまでもストイックな信念を垣間見ることができました。本編でも語られていた「心技体、すべてがそろって初めて強くなれる」という言葉を肝に銘じ、運動不足を自覚する方は宇津木さんを見習って鍛え直してはいかがでしょうか。心も体も軽くなり、仕事へのモチベーションがグッと向上するはずです。

※この記事は2023年12月のインタビューより書き起こしたものです。

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