高調波は「電気の公害」とも呼ばれる。公害の対策機器を提供しようというなら、実際の公害に対する効果を実証しなければ顧客への説得力に欠けるだろう。
新製品の開発では、開発段階で顧客に実際に使ってもらうフィールドテストを行うこともある。同じ方法が長谷の頭によぎったが、すぐに首を振った。それは高調波で今も悩まされている顧客のシステムを「おとり」にするようなものであり、到底お願いできるものではない。
どこで最終的な実証実験を行うのか。関係者が頭を悩ませていたところ、常峰がふと思い出したように言った。
「あ、ひょっとしたらあそこで実験できるかも」。
産総研での実証試験
常峰が「あそこ」と呼んだのは、福島県郡山市にある産業技術総合研究所の福島再生可能エネルギー研究所だ。常峰はその1年ほど前、業界団体の活動でこの研究所を見学したことがあった。その名の通り再生可能エネルギーの研究を行う施設であり、電気関連で多様な実験設備を持つ。そこならば実際の環境に即した実証実験ができるかもしれない。
矢部が問い合わせると確かに「実験可能」という。2020年11月、プロジェクトメンバーは開発中の高調波引込み対策機器をトラックに積み、同研究所を訪れた。系統電源を模した環境に、高調波を乗せて現場で高調波引込み現象が起こる環境を再現。そこに対策機器をつないで実証実験を繰り返した。
そこでの試験は、いずれも満足のいく結果であり、高調波引込み現象を止められることは実証された。最初の検討から1年半余りを経て、ようやく製品化が確実になったのである。これまで「新型エネセーバ」というコードネームで呼ばれていた対策機器は、製品化を前に「ハーモニックスセーバ」という名前が付けられた。