応用編 3|張力制御とは|製品特長|電磁クラッチ・ブレーキ|三菱電機 FA
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張力制御とは? 応用編 3

試験機の負荷装置としてパウダブレーキを使用する場合の選定

パウダクラッチ・ブレーキはその制御性の良さから、擬似的な負荷として、モータの特性測定や歯車、ベルトなど動力伝達要素の耐久試験に使用されます。
試験装置の負荷用としてパウダブレーキを使用する場合の選定方法、選定計算例、使用上の注意点を説明します。

パウダブレーキを張力制御用として選定する場合と同じで、使用するトルク、回転速度、スリップ工率(発熱量)が許容値以内に入っているかを確認します。
※定格トルク内で許容回転速度以下での使用であっても、スリップ工率(発熱量)が許容連続スリップ工率の範囲内でないと使用できませんので、十分注意する必要があります。

モータ試験用パウダブレーキの選定例

減速機付モータの特性を測定するためのパウダブレーキを選定します。

運転条件
出力 600W
負荷トルク(T) 44Nm
回転速度(Nr) 130r/min
計算

スリップ工率Pは
P=0.105×T×Nr=0.105×44×130=600W
計算結果から分かるように、
モータの出力=パウダブレーキのスリップ工率(発熱量)となります。

選定結果

上記運転条件を満たすパウダブレーキはZKB-5HBNになります。

許容値 判定
許容連続スリップ工率 1100W(at130r/min) 600W OK
定格トルク 50Nm 44Nm OK
許容回転速度 1800r/min 130r/min OK

電源装置は定電流タイプを推奨します。

モータ試験用パウダブレーキの選定例
モータ試験用パウダブレーキの選定例

伝動ベルトの耐久試験装置用パウダブレーキの選定例

伝動ベルト付のモータ特性を測定するためのパウダブレーキを選定します。

運転条件
負荷トルク(T) 15Nm
回転速度(Nr) 100r/min
運転パターン 正転/逆転=10sec/10secの繰り返し
回転方向切替時に5secの停止
計算

スリップ工率Pは
P=0.105×T×Nr=0.105×15×100=157.5W

選定結果

上記運転条件を満たすパウダブレーキはZA-2.5Y1になります。

許容値 判定
許容連続スリップ工率 200W(at100r/min) 157.5W OK
定格トルク 25Nm 15Nm OK
許容回転速度 1800r/min 100r/min OK

電源装置は定電流タイプを推奨します。

タイムチャート
伝動ベルトの耐久試験装置用パウダブレーキの選定例
伝動ベルトの耐久試験装置用パウダブレーキの選定例
伝動ベルトの耐久試験装置用パウダブレーキの選定例
注意

回転停止中もパウダブレーキに励磁電流を印加しておくと内部のパウダを動作面に保持することができ、再起動時にトルクの立ち上がり時間(応答性)が速くなります。

実際には起動/停止時に加速/減速に必要なトルクがブレーキトルクに加算/減算され、被検査対象にトルクが加算されるため余裕をもったパウダブレーキの選定が必要です。
加速/減速トルクTaは次の計算式で求めます。

  1. TaJ×(N2-N1)/(9.55×t)
  2. J回転部分の慣性モーメントの合計(kgm2
  3. N1初期回転速度(r/min)
  4. N2最終回転速度(r/min)
  5. t加速/減速時間(sec)
伝動ベルトの耐久試験装置用パウダブレーキの選定例

この加速/減速トルクTaの影響が問題になる場合は、加速/減速時間tを長くする必要があります。

【1】電源装置

パウダクラッチ・ブレーキは摩擦力でトルクを発生しているため、この摩擦力により発熱します。
この発熱によりコイル抵抗が変化します。
定電流の電源装置の場合は、コイル抵抗の変化はトルク特性に影響ありませんが、定電圧の電源装置の場合、温度変化により励磁電流が変化するため、トルク特性に影響があります。
(定電圧方式と定電流方式の説明は、『張力制御とは?』 を参照ください。)
試験機用は一定のトルクが求められるため、電源装置は定電流を推奨します。

【2】トルクのばらつき

パウダクラッチ・ブレーキは電気信号(コイル励磁電流)でトルクの調整ができるとはいえ、摩擦力でトルクを発生しているため、摩擦係数のばらつきによるトルクのばらつきは避けられません。 このトルクばらつきを考慮した上で、パウダクラッチ・ブレーキを使用する必要があります。
カタログに記載している励磁電流-トルク特性は代表測定例ですので、これを元に電流値を設定すると、目標に対して誤差が発生します。 正確なトルクの管理が必要な場合には、必ずトルクセンサ等でトルクを実測してください。

【3】トルクの経時変化

パウダクラッチ・ブレーキはパウダと動作面との摩擦力でトルクを発生しているため、パウダは使用に応じて劣化(酸化と微粉化)します。
劣化はトルクの低下につながるため、使用に応じて励磁電流を上げていく必要があります。
よって、正確なトルクの管理が必要な場合には、必ずトルクセンサ等でトルクを実測してください。

【4】空転トルク

励磁電流(A)をゼロにしても空転トルク(定格トルクの1~4%程度。機種・トルクサイズによって異なるため、カタログの仕様欄を参照してください。)があるため、完全な無負荷の状態にはなりません。
完全な無負荷の状態が必要な場合には、パウダクラッチ・ブレーキとは別に摩擦板式電磁クラッチなどを使用して、機械的に連結を切り離す構成にする必要があります。

【5】トルク応答性

パウダクラッチ・ブレーキの回転速度が遅い場合、(数十回転以下)トルク応答性が悪くなります。
また、トルク同様にばらつきがあります。

精度の高いトルク特性、応答性を要求される場合は、ヒステリシスクラッチ・ブレーキの使用を推奨します。

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